国は今度こそ、女性のキャリアを変えられるか。衆議院議員・上川陽子に聞く覚悟【女の転職type編集長 小林佳代子 対談】
女性の就業率は8割を超え、女性管理職比率や男性の育児休業取得率も少しずつ上昇している。社会全体を見れば、働く女性を取り巻く環境は良くなっているように見える。
しかし、当事者である働く女性の中には、「何も変わっていない」と感じている人も少なくない。
「今どれだけ努力してスキルや経験を積んでも、ライフステージが変わったらキャリアは途切れてしまうかもしれない」
そんな諦めにも似た不安を、心のどこかに抱えている人もいるだろう。
しかし今、日本の女性活躍はこれまでにない歴史的な大アップデートを迎えようとしている。AIやデジタル、アニメ・ゲームなど370兆円規模の成長投資を見込む『成長戦略17分野』の全てで女性活躍を推進する本気の施策が動き出したのだ。
働く女性を取り巻く環境は、今度こそ本当に変わるのか。『女の転職type』編集長・小林佳代子が、本政策を主導する衆議院議員・上川陽子さんに話を聞いた。
衆議院議員
上川陽子さん
衆議院議員。東京大学(国際関係論)卒業、三菱総合研究所 を経て 米国ハーバード大学ケネディスクールへ留学。帰国後政策コンサルティング会社設立。2000年に衆議院議員初当選(静岡1区)、現在9期目。外務大臣、法務大臣(3回)、初代公文書管理担当大臣、内閣府特命担当大臣(男女共同参画・少子化対策)などを歴任
女の転職type 編集長
小林 佳代子
東京女子大学卒業後、新卒で株式会社キャリアデザインセンターに入社。転職情報誌及び転職サイト『type』、『女の転職type』の求人広告制作に携わる制作部に配属され、1,000社以上の企業の求人広告制作に携わる。その後、新卒採用担当、働く女性のためのWebマガジン『Woman type』編集長を経て、2018年『女の転職type』編集長に就任。20年にわたり、多くの働く女性の、迷いや悩みを広い視点で捉えつつ、常に深く寄り添い続けてきた
女性のキャリアが広がらないのは、本人たちのせいではない
小林:この10年ほどで、女性活躍に関する法整備や企業の環境改善が進み、働く女性を取り巻く状況は少しずつ変化しています。
一方で、当事者である女性たちは、キャリアや働き方についてまだ多くの悩みを抱えているのが現状です。
上川さんは現在の日本における女性活躍の課題をどのように認識されていますか。
上川さん:今もなお、「女性が能力を発揮できるフィールドが限られていること」が、大きな課題だと考えています。
以前に比べれば女性活躍は前進しているものの、それは「今いる会社」「今やっている仕事」を続けることが前提の話です。
これまでの日本では、女性が転職やキャリアチェンジによって、多様な働き方を選択できる土壌がありませんでした。
一方で、妊娠・出産を経た後に以前と同じ職場や職種に戻るハードルも高く、周囲の支援や理解などさまざまな要素が必要でした。
でも考えてみてください。
もし女性たちが培ってきた能力や経験を、別の業界や職種でも活かせるキャリアパスがあれば、どうでしょうか?
出産や育児を経ても、全く別のキャリアを柔軟に展開していけるはずです。女性にはそれを成し得るだけの力が絶対にある。私はそう思っています。
小林:6月には、上川さんが委員長を務める女性活躍推進特別委員会が、「女性活躍を新しいステージへと引き上げるための提言」を、内閣に申し入れていましたね。
これも、女性が活躍できるフィールドが限られているという課題を解決するための提言なのでしょうか。
上川さん:その通りです。
日本の未来を切り拓くためには、女性がもっと幅広い分野で能力を発揮できる社会をつくらなければなりません。
だからこそ、今回の提言の第一の柱として、「『成長戦略17分野』における女性活躍」を明記しました。
小林:政府が370兆円規模で投資すると発表している戦略分野ですね。
上川さん:はい。『成長戦略17分野』は、AI・半導体やデジタル・サイバーセキュリティーから、造船や自動運転技術、アニメやゲームなどのコンテンツまで、非常におもしろく、これから伸びていく未来の領域が幅広く含まれています。
小林:これらの分野において、女性たちが活躍できるようにするための提言になるわけですね。
上川さん:具体的には、
・女性が能力を発揮でき、希望に応じて全方位型で活躍できる基盤づくり
・ライフステージが変わっても働き続けられる環境整備と企業等の行動変容
の3点を推進するよう政府に求めています。
一つの企業、一つの業界だけでなく、別の分野にもスキルを広げていける。そんなビジネスモデルを築いていきたいと考えています。
日本の女性は「理数の能力が世界トップクラス」なのに、大半が文系に進む
小林:今回の提言の取りまとめは、どのように進んでいったのでしょうか。
上川さん:実は当初、この成長戦略において、女性に特化したかたちでの記述がありませんでした。
小林:そうだったのですね!
上川さん:はい。そこで日本成長戦略本部の本部長である岸田文雄元総理に、「女性活躍」という言葉を明記して欲しいと要請して、受け入れてもらったのです。
私の方では、17分野の成長戦略を担当する各省庁に対し、女性活躍の現状について調査と報告をお願いしました。
その結果明らかになったのは、女性活躍推進には「出口戦略」を見据えた取り組みが必要ということです。
小林:出口戦略ですか?
上川さん:例えば造船業では、事務職として雇用される女性はいるものの、産業の中核を担う技術開発や製造などの職種では、女性が圧倒的に少ない。
つまり、理工系分野で学んできたとしても、キャリアの出口となる就業先がないのです。
小林:そもそも理系に進む女性が少ない現実もありますね。
上川さん:そうですね。『成長戦略17分野』で女性活躍を進めていくためには、理工系分野で活躍する女性を増やしていくことが欠かせません。
そのためには、社会に出てからではなく、大学や高校、さらには小中学生の頃から、女性たちが理工系を目指せるよう後押ししていく必要があります。
現在、大学の工学系学部における女性比率は約18%にとどまっています。そこで今回の提言では、2040年までにこの割合を36%へ倍増させるという具体的な数値目標を盛り込みました。
小林:提言で真っ先に「『文理の壁』打破」を掲げている背景には、そのような理由があったのですね。
上川さん:日本の女性は理系の能力が高いんですよ。それはPISA(OECDによる10代を対象とした学習到達度調査)の結果などでも示されています。
ところが進路選択の段階になると、女性の大半が文系へ流れる。それは理工系学部で学んでも就職先がないという出口の問題もありますし、育った環境の中で「理系は無理」という思い込みが、知らず知らずのうちに育ったケースもあるでしょう。
ですから提言には「アンコンシャス・バイアスによる弊害の解消」もしっかり盛り込んでいます。思い込みを解き放てば、女性の未来はもっと面白くなります!
「原案の段階では、文理の壁やアンコンシャス・バイアスなどのキーワードは全く入っていなかったんですよ。当初は従来の政策と変わらない、極めて古めかしい表現が並んでいました。ですから私は言葉の一つ一つにこだわり、オリジナルのキーワードをどんどん入れていきました」(上川さん)
外交の場で目の当たりにした、世界と日本の大きなギャップが私を動かした
小林:党内や経済界から反対意見などは出なかったのでしょうか?
上川さん:最初は、女性議員の中からも「なぜ成長戦略と女性活躍を結びつけるのか」と疑問の声が上がりました。
それでも私は、女性活躍は女性だけのための政策ではなく、これからの日本を成長させるために欠かせないものだと、繰り返し伝えてきました。 対話を重ねる中で少しずつ思いが共有され、最終的には、とても前向きな雰囲気で提言をまとめることができたと思います。
政府は2040年度までに、『成長戦略17分野』を対象に官民で370兆円規模の投資を行う計画を打ち出していますが、このフィールド全てを女性が活躍する舞台にしていきたいですね。
小林:なぜ上川さんはこれほど強い意志を持って、女性活躍推進に取り組まれるのでしょう? 何か課題意識を強めるきっかけがあったのでしょうか。
上川さん:世界に目を向けたとき、日本では女性が活躍できるフィールドがあまりにも限られている。その現実を、私自身が何度も目の当たりにしてきたからです。
私は外務大臣の在任中に47カ国を訪問し、各国の外務大臣とのべ150回ほど会談を行いましたが、私に同行する外務省職員はほとんどが男性でした。一方で相手国は、外務大臣を囲むスタッフが女性ばかりということも珍しくありません。
諸外国では女性が外交のトップを務めることも多く、2024年のG7サミット外相会合に出席した8名のうち、私を含めて女性は4名。つまり男女比は4対4のイーブンです。これがグローバルでは当たり前の景色なのです。
上川さん:ところが日本では、外交に限らず、さまざまな分野で、能力のある女性がまだ十分に力を発揮できていません。
女性に力がないのではなく、活躍する場所や機会が、十分に開かれていないのです。
この現実を変えなければならない。女性たちが持っている力を、もっと広い世界で生かせるようにしなければならない。外交の現場で痛感した課題意識が、私を突き動かしたのです。
私たちは本気で取り組んでいくから、やりたいことを諦めないで
小林:今後、この動きはさらに加速していくのでしょうか。
上川さん:ええ、これからは、地方での女性活躍にも力を入れていきたいと思っています。
今、地方では、若い女性の都市部への流出が大きな課題となっています。でも地方に魅力的な職場があれば、地元に戻ってキャリアを積みたいと考える女性が増えるはずですから。
女性の能力開発やリスキリングの支援などと、地方向けの政策を組み合わせることで、住む地域にかかわらず、あらゆる領域で女性たちが能力を活かせる社会にしていきたいですね。
小林:こうした国の動きを、働く女性たちは自分のキャリアにどう生かしていけばよいのでしょうか。
上川さん:まず、「これは自分のことが語られている政策なのだ」と受け止めていただきたいです。
「自分がいる世界とは関係ない」と受け止められた途端に、政策は機能しなくなってしまいますから。
私たちも政策や方針を広く皆さんにお届けするために、女性や企業への広報活動に力を入れていきます。
特別委員会が提言した内容については、政府の「女性活躍・男女共同参画の重点方針2026(女性版骨太の方針2026)」、「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」、「日本成長戦略」に反映することが出来ました。
女性の未来を拓くために、何としても実現したいと働きかけてきた内容が、国の重要方針に位置付けられたことは、大きな成果だと感じています。
小林:政治は、自分たちとは遠い世界の話だと感じている人も多いと思います。けれど、自分事として受け止めることが、国の取り組みを味方につけるための一歩になりそうですね。
上川さん:そうですね。私たちは、女性たちがのびのびとキャリアを広げていけるように全力を尽くします。
だから女性の皆さんには、「自分は何がしたいのか」という気持ちを何よりも大切にしてほしいと思います。
「女性だから〜しなければならない」「女性はこうあるべきだ」というアンコンシャス・バイアスにとらわれてしまっている女性も多いと思いますが、まずは自らこれらを取り除いてみてください。
こうした思い込みは、今まで過ごした環境や経験を通して自然に刷り込まれてきたものなので、手放すのは簡単ではないかもしれません。しかしその壁を打ち破り、前へ進んでいる女性はたくさんいます。
私たちも、女性が挑戦できる場所や選択肢を増やすために、本気で取り組んでいきます。
だからこそ皆さんも、のびのびと自分らしくキャリアを切り拓いていってほしい。心からそう願っています。
取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太 編集/光谷麻里(編集部)


