山田孝之「いつ俳優を辞めてもいい」それでも27年続ける自分を支えた“架空の逃げ道”
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
働き始めて数年がたつと、この先どんな仕事をして、どんな自分になりたいのか。自分なりの“答え”を持たなければと焦ることもある。
けれど、俳優の山田孝之さんは、「人生設計はない」「俳優としてどう見られたいかも、ほぼゼロ」と話す。それどころか、「いつ俳優を辞めてもいい」とさえ思っているという。
なぜ、長く続けてきた仕事にそこまで執着せずにいられるのか。
公開オーディション番組『THE OPEN CALL -MAIN PARTNER 山田孝之-』の舞台裏から見えてきたのは、変化し続ける山田さんならではの仕事との向き合い方だった。
山田孝之さん
1983年生まれ、鹿児島県出身。99年に俳優デビューし、2003年ドラマ『WATER BOYS』(フジテレビ)でテレビドラマ初主演。代表的な主演作品として、ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』、『闇金ウシジマくん』シリーズ、『勇者ヨシヒコ』シリーズ、Netflixシリーズ『全裸監督』など。第48回日本アカデミー賞、映画『正体』で優秀助演男優賞を受賞。
山田孝之がオーディションで見ていたもの
山田さんがメインパートナーを務める『THE OPEN CALL』は、約1万4000人の応募者から、2027年劇場公開予定のオリジナル映画の主要キャストを選ぶ、公開オーディション企画。
完成した役に人を当てはめるのではなく、参加者の個性や対話を脚本に反映し、ゼロから映画をつくる。その選考と創作の過程を追う番組が、2026年10月1日からLeminoで独占配信される。
15歳以上なら性別・国籍・所属事務所・演技経験は不問。山田さんは審査に加わり、参加者と芝居を交わしながら映画づくりにも関わる。
番組が掲げるテーマは「俳優って何だ?」。では、約27年にわたり現場に立ってきた山田さんにとって、「プロの俳優」とは何なのだろう。
そもそも、僕にはプロとアマチュアを明確に線引きする感覚がないんです。初めてギャラをもらったらプロだと言う人もいれば、主演をやり始めたらプロだと考える人もいる。
僕はそこには関心がないです。別に自分のことをプロだとも思っていないです。プロかどうかなんて、それぐらいどうでもいいんです。
「どうでもいい」。その言葉だけを見れば、仕事に無頓着なようにも聞こえる。だが、オーディションで参加者を見る山田さんの視点は、驚くほど具体的だ。
オーディションでは率直に、「芝居がうまい人は、本当にたくさんいるな」と感じました。なんでこの人たちは、まだ世に出ていないんだろうと不思議に思ったくらいです。
何もない会場で、私服のまま演じているのに、引き込まれていくうちに衣装や背景まで見えてくる。芝居が終わった後の3シーン先まで想像できるような人もいて、「うわっ、すげえ」と思いました。
審査で重視しているのは、知名度でも、経歴の長さでもない。「その役に見えるかどうか」だという。
その人がどんな過去を生きてきて、この場面の後にどう生きていくのか。
短い芝居の中から、その人の人生がどれくらい見えてくるかは、かなり大きいです。
どんな肩書を持っているかではなく、目の前の仕事ぶりから、その人が生きてきた時間まで立ち上がるか。山田さんが見ているのは、経歴書の文字だけでは測れないものだ。
「個性は勝手に出てくる」強みは後からでいい
ヘアメイク/南辻光宏 スタイリスト/飯田恵理子(CORAZON)
衣装: シャツ/¥35,200/Ground Y(グラウンド ワイ)
<お問い合わせ先> Ground Y(グラウンド ワイ) ヨウジヤマモト プレスルーム/TEL 03-5463-1500
役の人生まで感じさせる芝居には、演じ手自身の「個性」もにじむ。山田さんも、俳優を長く続ける上では「自分の個性に自覚的になること」は大切だと話す。
俳優として長く続けるなら、考え方や見た目も含めた「個性」をどう生かすかには、真剣に向き合わなければいけないと思います。
例えば自分では短所だと思っていることが、実は一番重要なこともある。その短所をどう長所に切り替えるか、ということなんじゃないかな。
山田さん自身も、日本を代表する「個性派俳優」の一人として知られるが、本人はその評価をどう受け止めているのだろう。
「僕が個性派かどうかは分からないですけど……」と笑う山田さんの口から語られたのは、意外な過去だった。
10代の頃の自分は、全く個性がなかったんです。だから「俳優としてどうやって生きていこうか」と考えていました。
その頃は女の子に間違われることもあって、「俺は薩摩で育ったのに……。もっと男らしい、熊男みたいになりたい」とずっと思っていました。
「そこから時を経て、理想通りの姿になれたわけです」と、今ではトレードマークとなった無精ひげを蓄えた口元をほころばせる山田さん。
一つの役を大勢で争う俳優の世界では、「他の人とどう違うか」を意識せずにはいられないようにも思える。 だが、自身は意外なほど力が抜けている。
個性は、勝手に出てくるんじゃないですか。俳優は作品ごとにチームも環境も変わるし、そこで求められることも違う。そういう場所で生きているうちに、自然と出てくるものだと思います。
僕自身は何も考えていなくて、ありのままに生きているだけ。それが多分、世間から「個性」と言われているんでしょうね。
個性を無理につくろうとしないのと同じように、「俳優としてどう見られたいか」も決めようとしない。
「もっと有名になりたい」「もっとお金を稼ぎたい」「ブランディングを確立したい」とは、別に思わないです。執着して縛られるのが嫌なんです。本当はふらふらしていたいし、毎日趣味の釣りだけしていたいような人間なので。
もちろん、芝居へのこだわりはあります。でも、俳優として生きるために、どういう立ち位置で、どう見られたいかという感情は、ゼロに等しいです。
人生設計みたいなものも、ないです。いつ死ぬか分からないんで。「何歳でこれをする」という考えは、ゼロです。
目の前の仕事の質には、徹底的にこだわる。一方で、肩書や立ち位置には執着しない。その二つは、山田さんの中では矛盾しない。
「自分にはこれしかない」は生きづらい
肩書や「周りからどう見られるか」への執着を感じさせない山田さん。とはいえ、昔から今のような考え方だったわけではない。
仕事への向き合い方が変わったのは20代の頃。きっかけは、俳優を本業としない人たちの芝居だった。
ミュージシャンの方がドラマに出ると、すごく良い芝居をすることがあるんです。20代の頃に「なんでこんなに良いんだろう」と考えて、「帰る場所があるからだ」と気付きました。
たとえ芝居を酷評されても、ライブのステージやレコーディングスタジオに戻ればいい。
「ここで失敗したら終わりではない」という安心感が肩の力を抜き、結果としていい芝居につながっているのではないか。
そう考えた山田さんは、その発想を自分にも取り入れることにした。
だったら、僕も“架空の逃げ道”をつくろうと思ったんです。「俳優として生きていくんだ」「これしかないんだ」と思うと、そこに執着が湧いて、生きづらくなるので。
今のところ「本当の逃げ道」は見つかっていませんが、今俳優に費やしているこの膨大な時間を使えば、次やりたいことなんかすぐに見つかると思っているんです。
実際に、ほかにもっと面白いことがあるなら、いつ俳優を辞めてもいいと思っています。
「ここ7~8年は、辞める理由を探し続けているんです」と山田さん。それでも約27年、俳優を続けてきたのはなぜか。
楽しいから、というのはもちろんあります。それに、答えがない仕事だから。
やってもやっても発見があるし、自分の思い描いた通りにできず、「これが今の実力か」と悔しい思いをすることもある。それは、どんな仕事でも同じだと思います。
「答えがないからこそ、続けられる」。そして答えのない仕事で迷った時も、山田さんは“正解”を誰かに委ねない。
正解を人に求めても、出てこないですから。
映画を見た人にどう思ってほしいかを考えるのは、監督や脚本家の役割。僕たち俳優に与えられた仕事は、誰よりも役のことを理解して、スタートがかかったら、カメラの前で役として存在することです。
脚本に書かれているのは、その人の人生の一部だけ。俳優は、その人の一生分を自分の中でつくらなければいけない。誤解を恐れずに言うと、俳優って、役に関しては脚本家よりも脚本を書くんです。
俳優としてどう見られたいかは「ゼロに等しい」。けれど、ひとたび役を任されれば、脚本に描かれていない人生までつくり込む。そうして役と一体になれた時に湧く感情は、「楽しい」とは少し違うという。
この世にまだ存在していない人を、存在させてあげられるわけじゃないですか。その人の気持ちまで理解して、一つになれる。夫婦でも親子でも、おそらくそこまで一つにはなれないと思うから。それが、単純にうれしいんです。
俳優という肩書には執着しない。けれど、目の前の役には、誰よりも深く潜っていく。
「いつ辞めてもいい」と思うことと、今の仕事に本気で向き合うことは、決して矛盾しないのかもしれない。
「これしかない」と自分を縛らないこと。それも、長く働き続けるための一つの強さなのだ。
取材・文/小島浩平 撮影/笹井タカマサ
番組情報:『THE OPEN CALL -MAIN PARTNER 山田孝之-』
2026年10月1日(木)より毎週木曜、Leminoで独占配信。約1万4000人の応募者から、2027年劇場公開予定のオリジナル映画の主要キャストを決定する。第1話は広告付き無料配信、第2話以降はLeminoプレミアムで配信。
公式サイト:https://lemino.docomo.ne.jp/ft/0000161/
(c)NTT DOCOMO, INC.
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