Lynn「声優になれたのに、アニメの仕事ができない」後輩にも先を越され…“遠回り”の先で見つけたもの
ずっとやりたかった仕事なのに、いざ始めてみると思ったように成果が出せない。
後から始めた人が先に結果を出していく姿を横目に、「向いてないのかもしれない」「このまま続けていていいのかな」と心が揺れた経験はないだろうか。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『君の膵臓をたべたい』 『劇場版「鬼滅の刃」』 など話題の作品で引っ張りだこの声優、Lynnさんにも、そんな時期があった。
幼い頃から憧れ続けた声優の夢をかなえたものの、当初任されたのは、やりたかったアニメではなく海外作品の吹き替えが中心。後輩たちが先にアニメで活躍していく姿に、悔しさを募らせたこともあったという。
それでも「やりたい」という気持ちを手放さず、念願だったアニメの世界へとたどり着いたLynnさん。思うようにいかない日々の中で、何を支えに歩み続けてきたのだろう。
最新作のアニメ『ホタルの嫁入り』での挑戦とともに、遠回りの先で夢をつかむまでの道のりを聞いた。
Lynnさん
声優。6月1日生まれ、新潟県出身。アニメや海外作品の吹き替えなど幅広く活躍する。主な出演作に、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』(2018年)山内桜良役、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(22年)ミオリネ・レンブラン役、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(25年)恋雪役など。2026年10月放送開始のTVアニメ『ホタルの嫁入り』では、主人公・桐ヶ谷紗都子役を務める ■X
「自分らしく生きたい」揺れ動く心を“声”で描く
アニメ『ホタルの嫁入り』の舞台は、「女は家の財産」とされていた明治時代。名家に生まれながらも心臓に病を抱え、余命わずかと宣告された令嬢・桐ヶ谷紗都子(きりがや・さとこ)は、父や家のために良縁を結ぶことを、自らの使命だと考えていた。
しかし、殺し屋・後藤進平との出会いをきっかけに、次第に「自由に、自分らしく生きたい」という思いを抱くようになっていく。
ラブストーリーを軸にしながら、誰かのために生きてきた女性が、自分自身の幸せに手を伸ばしていく物語でもある。
紗都子を演じたLynnさんが、収録で特に難しさを感じたのが、揺れ動く紗都子の心情を繊細に表現することだった。
紗都子はとにかくセリフ量が多くて。特に物語の序盤は、ページをめくってもめくっても紗都子がしゃべっているくらい(笑)
セリフ量が多いだけでなくて、表向きに話していることと心の中で思っていることが異なる場面も多いので、それぞれの感情を使い分けながら、紗都子の心情を表現していくことの難しさを感じました。
紗都子は何者かに連れ去られたことをきっかけに進平と出会う。生き延びるために数々の困難を自ら乗り越えていく中で、その内面も少しずつ変化していく。
その変化を声でどう表現するかも、Lynnさんにとって一つの挑戦だった。
紗都子は「家や父のため」を第一に生きていた人だけれど、進平さんと出会い、年相応のピュアな気持ちが少しずつ芽生えていきます。
最初は努めて大人っぽく振る舞っていた紗都子が、物語が進むにつれて、少しずつかわいらしく柔らかな一面を見せるようになる。その心情の変化は、演じる上でも意識していたところです。
自分自身の素直な気持ちと向き合い、少しずつ「自分の人生」を生きる強さを手にしていく。そんな紗都子の変化は、働く女性たちの背中もそっと押してくれる。
声優の夢をかなえるも…やりたい仕事に手が届かない
決してあきらめず、どんな状況でも自分で自分を鼓舞しながら、夢をつかむ方法を探し続ける。紗都子のそういう部分は、私にも似ているところがあるのかなと思います。
その言葉通り、Lynnさん自身「絶対に声優になる」と心に決め、その夢をつかみ取っている。
Lynnさんが声優という仕事に興味を持ったのは、小学生の頃。大好きなアニメを観る中で、憧れを抱くようになっていった。
高校時代には「学業をおろそかにしないこと」を条件に両親の許しを得て、養成所へ。学校が終わると、新潟から新幹線で東京へと通う日々を送った。
「絶対にかなえたい」と思ったら突き進んでしまうタイプで。日常のちょっとしたことでも、「やりたい」と思ったら絶対にやりたいし、そのためにどうにか方法を探そうとします。
意志が強いというか、気が強いというか(笑)。きっと声にもどことなく強さが乗っているのかなと思います。 そういう部分も、紗都子役に選んでいただいた理由の一つかもしれません。
こうして、念願だった声優への道を歩み始めたLynnさん。
けれど、「声優になる」という夢をかなえた先で待っていたのは、思い描いていた景色とは少し違う現実だった。
任される仕事の多くは海外作品の吹き替え。ずっと憧れていたアニメの仕事には、なかなか手が届かなかった。
ただ、吹き替えには吹き替えの楽しさややりがいがあったので、「自分はこちらの道なのかな」と納得して過ごしていた部分もあったんです。
それに、吹き替えの現場には、本当にお芝居が素晴らしい先輩方がたくさんいらっしゃって。「こんなお芝居を間近で見られるなんて、勉強しないともったいない」と思っていました。
良いものは全部盗んでやるぞ、くらいの気持ちで、貪欲に吸収しようとしていました。
吹き替えの仕事は楽しい。学べることもたくさんある。自分はこの道でもいいのかもしれない。
そう思う一方で、アニメへの憧れが消えることはなかった。
胸の奥にしまっていたアニメへの想いが溢れ出したのは、自分より後から入ってきた後輩がアニメの仕事をつかんでいく姿を見た時。やっぱり悔しくて。
その子たちとは、今アニメの現場で一緒になることもあるのですが、当時の気持ちがよみがえってくることがあります。それくらい悔しかったんだと思います。
それでも折れずに頑張ってこられたのは、やっぱり「演じること」がすごく楽しかったから。それは吹き替えでもアニメでも変わらないです。
やりたい仕事に届かない悔しさを抱えながらも、目の前にある仕事に打ち込み続けたLynnさん。すると、思いがけないところから転機が訪れた。
新しく担当になったマネージャーから、アニメのメインキャラクターのオーディションの話を持ち掛けられたのだ。
当時は、私の声質ならアニメより外画吹き替えの方が活きるだろうということで、そもそもアニメのオーディション自体をあまり受ける機会がなかったんです。
でも、新しく入ってきたマネージャーさんが「この役はLynnちゃんに合うと思って」と話を持ってきてくださって。
そして見事オーディションに合格し、アニメメインキャラクター獲得を果たしたLynnさん。
一見すると、夢への「遠回り」にも見える日々が続いていたが、その時間は決して足踏みではなかった。
目の前の仕事に楽しさを見いだし、先輩たちの芝居を貪欲に吸収してきた経験は、念願だったアニメの世界に足を踏み入れた後、Lynnさんならではの強みになっていったのだ。
今振り返ると、吹き替えからスタートして良かったと思っています。
吹き替えは、リアルな人間に声をあてるので、お芝居のつくり方がすごくナチュラルなんです。私がアニメを始めた頃にも、先輩からそのナチュラルさについて「それがあなたのお芝居の良いところだから」とおっしゃっていただいたことがありました。
最近はアニメでも、デフォルメされた表現だけではなく、リアル寄りのナチュラルなお芝居を求められる作品が増えているように感じていて。
今になって、吹き替えで身に付けてきたものと、ずっとやりたかったアニメの仕事がつながってきているのを感じます。
そう微笑むLynnさん。遠回りに思えた経験が個性になり、やりたかった仕事を支える力になる。
思い描いていた道をまっすぐ進めなくても、そこで積み重ねたものが、いつかたどり着いた場所で、思いがけないかたちで花開くこともあるのだ。
「よそはよそ、うちはうち」周りなんか見なくていい
やりたい仕事をつかみ取ったものの、思うような結果が出ない日々が続けば、このまま頑張るべきか、それとも諦めるべきか、心が揺れることもあるだろう。
そんな働く女性たちにLynnさんは、「辞めることも、逃げることも悪いことではない」と語り掛ける。
他にやりたいことや興味があることがあるなら、別に辞めたって、逃げたっていいと思うんです。
ただ、他にやりたいことがないのに「今の環境が嫌だから」という理由だけで逃げてしまうと、後悔する気がします。
今の仕事を楽しいと感じられたり、苦しくてもやり遂げた時に達成感を感じられたりするのなら、もう少し頑張ってみてもいいかもしれません。
目の前の仕事に全力で取り組んでいたら、思いもよらないところからチャンスが巡ってきたり、新しい道が見えてきたりすることもあるんじゃないかなと思います。
それでも、頑張り続けるほど、先を行く誰かが目に入ってしまい、焦ったり、悔しくなったりする日もあるだろう。
そんな時、Lynnさんが思い出すのは、幼い頃から母に言われてきた言葉だ。
「よそはよそ、うちはうち」です(笑)。
子どもの頃から母にずっとそう言われて育ってきたので、人と比べても仕方がないという感覚があるんです。他人との違いを見るよりも、自分自身と向き合う。そういう考え方は、自然と身に付いていたのかもしれません。
念願だったアニメの世界で活躍するようになったLynnさんだが、その目はすでに次の目標へと向いている。
声優になった当初から「いつか男の子の主人公を演じたい」と思っていて。それが今、かなえたい目標の一つです。
また、吹き替えの仕事でも幅を広げたいです。持ち役(特定の海外俳優の吹き替えを、同じ声優が継続して担当すること)として声を担当したい俳優さんがいるので、その方に声をあて続けられたらいいなって。まだまだ、かなえたいことはたくさんあります。
かなえたい夢がある限り、思い描いた通りに進めない時間も、周囲を見渡して焦ってしまうことも、きっとある。
でも、今いる場所で自分なりの「楽しい」を見つけられるのなら──。誰かの歩幅に惑わされず、目の前の仕事と向き合いながら一歩ずつ進んでいけば、いつか思いもよらない未来が開けることもあるのかもしれない。
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/笹井タカマサ
作品情報
TVアニメ『ホタルの嫁入り』全国フジテレビ系“ノイタミナ”にて、2026年10月9日より毎週金曜23時30分放送開始!
AT-Xにて10月16日より毎週金曜23時放送(リピート放送 毎週火曜11時~/毎週木曜17時~)
10月9日より毎週金曜24時〜各プラットフォームにて順次配信開始!
女は家の財産とされた時代――
名家に生まれ美貌に恵まれるも、余命わずかと言われている伯爵家の令嬢・桐ヶ谷紗都子。
そんな彼女の夢は名家に嫁ぎ、父の誇りになること。
しかしある夜、何者かの企てによって連れ去られてしまう。
絶体絶命の場面に居合わせた殺し屋・後藤進平に
「私たち結婚しましょう。私と一緒になれば全てが手に入ります。」
と咄嗟の嘘をつく紗都子。
「運命の相手だ」と紗都子を狂愛する進平と
自らの使命と進平への想いの間で揺れる紗都子の
一途で許されぬ愛のかたち。
■キャスト
桐ヶ谷紗都子:Lynn
後藤進平:内山昂輝
小川康太郎:伊東健人
三枝:津田健次郎
■スタッフ
監督:亀井隆広(「うる星やつら」「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」)
シリーズ構成・脚本:柿原優子(「薬屋のひとりごと」「うる星やつら」)
キャラクターデザイン:愛敬由紀子(「サイダーのように言葉が湧き上がる」「四月は君の嘘」)
音楽:KAY(NOGRID)、佐藤浩一(NOGRID)、Nic Gitter(NOGRID)
アニメーション制作:david production(「ジョジョの奇妙な冒険」「はたらく細胞」)
■主題歌
オープニング・テーマ:iri「Period」
エンディング・テーマ:TOOBOE 「夢心地」
■原作情報
原作:橘オレコ「ホタルの嫁入り」(小学館「マンガワンコミックス」刊)
コミックアプリ「マンガワン」にて連載
コミックス①~⑫巻発売中
累計発行部数:500万部
TVアニメ公式サイト:https://hotaru-anime.com/
TVアニメ公式X:@hotaru_anime_pr
TVアニメ公式TikTok:https://www.tiktok.com/@hotaru_anime_pr
TVアニメ公式Instagram:https://www.instagram.com/hotaru_anime_pr/
©︎橘オレコ/小学館/アニメ「ホタルの嫁入り」製作委員会
『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
>> https://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/anotheraction/をクリック


