08 DEC/2016

フランスではシングルマザーこそ男性にモテる!? 海外との比較で見る日本の働く女性たちの生きづらさ/少子化ジャーナリスト・白河桃子さん

5周年記念

Woman typeが実施した読者アンケートによれば、働く女性の8割以上が現状の日本社会に“生きづらさ”を感じている。世界各国のメディアでも、日本社会で女性が働いていくことのしんどさについては度々取り上げられてきた。何となくこの国に蔓延しているしんどさの原因は何なのだろう……? どうすれば、私たちはもっと心地よく働き、生きていくことができるのだろうか――。「時代の常識を変える」パワーを持つ、各界の識者たちにその答えを聞いた。

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本特集第4弾に登場するのは、労働問題や結婚・家族について取材し、出版、講演などで活躍する白河桃子さん。現在、内閣官房「働き方改革実現会議」にも参画し、民間議員として長時間労働の是正などの提言に取り組んでいる。海外の労働事情にも詳しい白河さんは、日本の働く女性たちの生きづらさについてどのように考えているのだろうか。

白河桃子

作家・少子化ジャーナリスト 白河 桃子(しらかわ・とうこ)さん 1984年、慶應義塾大学卒業。住友商事、外資系金融機関等を経て著述業に。女性のライフプラン、女性活躍推進、未婚、晩婚、少子化などをテーマに数多くの取材・執筆・講演を行い、少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授として活躍。山田昌弘中央大学教授との共著『婚活時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は19万部のヒットに。その他、『産むと働くの教科書』(講談社)、『女子と就活』(中公新書ラクレ)、『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)、『専業主夫になりたい男たち』(ポプラ新書)など著書多数。地域少子化対策検証プロジェクト委員、一億総活躍国民会議民間議員

「親なんだから苦労して当然」はあり得ない!
「子育ては大変な仕事」だと社会が認めている国・フランス

先月(2016年10月)、世界経済フォーラム(WEF)の2016年版『ジェンダー・ギャップ指数』で、日本の順位は調査対象144カ国のうち111位で過去最低の水準だったというニュースがありました。国はこんなに「女性活躍が大事だ」といって旗振りをしているのに、現実とのギャップは非常に大き過ぎる。なんだかがっくりきてしまいますよね。でもこれは、日本が何も変わっていないということではなくて、他の国が進歩するスピードの方がもっと早いということなんだと考えています。

さて、今回はこの国の女性たちが抱える生きづらさがテーマになっているとのこと。どうやってそれを解消していくかを考える上で、私が特に「女性にとって働きやすく、生きやすい」と感じる国の事例をいくつか紹介したいと思います。

まずは、フランスの事例です。フランスは、少子化対策の一環で、子を産む女性を対象とした優遇政策を充実させ、『政府が子育てを応援する』というメッセージを発信している国。子育て手当や家族手当の種類も多く、簡単に国の支援を受けることができます。驚くべきことに、シングルマザーでも子どもが4人いれば、手当だけで十分生きていけるくらいのお金が出るそうで、“シングルマザーこそ男性からもモテる”なんていう状況もあるそうですよ。

白河桃子

それに、3歳からの保育学校はほとんど全入で無償ですし、着替えやオムツなども親が持っていく必要はありません。日本では使用済みのオムツを持って帰らせる保育園もあると聞いていますが、「フランスで絶対にあり得ない」と、仏在住で『フランスはどう少子化を克服したか?』著者の高崎順子さんに聞きました。

また、大学の学費も無料なので、生活保護を受けながら働くシングルマザーでも、「うちの娘は大学を出たらジャーナリストになりたいって言っているのよ!」と、笑顔で語れる雰囲気があります。夫がいなくても、仕事がなくなっても、国が子育てをサポートしてくれる。安心して「産む」と「働く」を両立できる環境があるのです。

一方、日本にも子育て支援はありますが、それはあくまで子に対する支援です。親のことは「親なんだから大変なのは当たり前」とし、親は応援されていないと感じているのでは? それに、「母たるもの、子どものためにすべてを犠牲にすべきだ」という同調圧力もあるように感じます。

保育園にも入れないし、子どもを育てるにはお金がかかるし、それなのに働けない……。こんな状況では、「育児と仕事の両立なんて無理だ」と思ってしまう若い女性が増えて当然です。

急にフランスのような福祉を充実させることは難しくても、「子育ては大変な仕事」なのだということを社会全体で認め、親をサポートするために何ができるかを考えていかなければいけません。

キーワードは長時間労働の是正と、男性の家事・育児参加
オランダ、スウェーデンの事例から学べること

また、オランダとスウェーデンも女性が生きやすい国だと思います。どちらの国も、国際的に見て男女平等が進んでいる国だと言われていますね。

オランダには「ワークシェア」の制度があって、週に3日だけ働く人も多くいます。男女ともに、仕事のない日は子どもの世話ができますから、週5日で保育園を利用している家庭はほぼないような環境です。

白河桃子

スウェーデンでは、1年間の育児休暇の内の2カ月は父親しか取れない法律を作って家事・子育てを男女できちんと分け合うようにしていますし、1年間の育児休暇を半分ずつ取ったカップルには育児手当や報奨金が出るようになっています。

ただし、こうした国々も、元々男女平等だったわけではありません。少子化や労働力不足の問題に対処するため、「男も女も、仕事と家庭を両立できる」環境を国や企業が整えていったのです。

逃げてもいいし、転んでいい。“あるべき姿”なんて気にしなくていい

ここまで、海外の取り組みを事例に国や企業がすべき努力についてお話してきましたが、女性たち自身も他人事でいてはダメ。女性が声をあげることをやめてしまったら、国は動いてくれませんし、世の中は今のままです。

だからと言って何か大それたことをやれという話ではありません。例えば、必ず選挙に行って投票に参加することも一つのアクションです。実際、女性議員がいる市町村は出生率が高いという調査結果もありますし、世の中を変えてくれそうな人をちゃんと自分で見極めて応援する。それだけでも未来は変わっていきます。

また、日本では「母は」、「女は」、「男は」、「若者は」、「企業人は」“かくあるべし”といった同調圧力が強い傾向があると先ほど申し上げましたが、それを気にしながら生きる必要もないと思っています。時代や社会は急激に変わっているのに、「こうあるべき」という思い込みはなかなか変化しないから、余計にギャップが広がっていくのです。

白河桃子

私が教えている大学の女子学生を見ていて思うことは、「自分で自分の人生を思い通りにデザインしていく」という発想がないということ。「子育てが始まったら仕事を頑張れなくなるから、独身のうちは激務な環境でも我慢して働かなきゃ」とか、「どうせ男性は家事をしないから、自分が仕事も家事もやらなきゃ」とか、本当に思い込んでいるんですよ。どういう人生を送りたいかということよりも、「今の世の中がこうだから、自分たちはそれに合わせてこう生きなくてはいけない」という強い思い込みがあるようで、自ら逃げ場をなくしているように見えます。

苦しい時にはそれに耐えるばかりじゃなくて、環境を変えてみたり、逃げたっていいんです。その方法がわからないなら、周囲の人に相談したり、その分野のプロの話を聞いてみたり、とにかく誰かを頼ればいい。

バリキャリで活躍する華やかなロールモデルばかりでなく、転職経験者や離婚経験者、シングルマザーのようなロールモデルをたくさん見ておくことも有効です。「何とかなる」のお手本を、自分の中にたくさんストックしておくのです。上手な転び方や逃げ方を知っているというだけで、随分と生きやすくなると思います。

全員が「やりがいのある仕事」をするわけではない。
仕事は人生そのものじゃなく、人生の一部

白河桃子

仕事選びも、“こうあるべき”という常識を気にし過ぎることはありません。

例えば、「やりがいのある仕事をすべきだ」という論調がありますが、そのために「やりたいことがない自分はダメだ」と苦しむ女性がいます。でも、「やりがいある仕事」のみが自分の人生を輝かせるものではありませんし、無理に探す必要もないと思います。「こういう生活がしたい」ことをベースに働いても良いのでは?

以前、フランス人に「なぜ働くか」を聞いたら、ほとんどの人が「お金のため」と答えました。そもそも、「自分がどう生きたいか」という理想があって、それを実現するために必要なお金を稼ぐための手段が仕事であるという考え方です。「やりがいのある仕事をしている人」だけが素敵なのではなく、あくまで、「自分らしいライフスタイルで、人のせいにせず生きている人」が素敵だというのです。まさにその通りだと思いました。

仕事はたしかに人生の多くの時間を使わせるものですが、それだけが人生じゃない。豊かな人生を送るための一つの手段が仕事です。あなた自身が「本当に価値がある」と感じている時間や人、モノを大切にしながら、心地良く生きていきましょう。

取材・文/上野真理子 撮影/吉永和志

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