「上司なら私の頑張りに気付くべき」その“静かな期待”が裏切られる理由
長く仕事は続けていきたい。でも、どんな仕事が自分に合っているのか、そもそもどんな人生を送りたいのか、自分のありたい姿が明確にならない女性も多いはず――。そこでこの連載では、さまざまな人生経験を積んできた『Mentor For』のメンターたちが、“豊かなキャリア”を描いていくためのヒントを後輩女性に向けて送ります
皆さんこんにちは。『Mentor For』公式メンターの畑さち子です。
前回に続き今回も、私が行なっているメンタリングのセッションで女性たちがどんな変化を遂げたのか、具体例をご紹介したいと思います(メンタリングには守秘義務がありますので、場面や言葉を変えながら、また複数のケースを混ぜながら書きます)。
Woman type読者の皆さんの中には、職場で後輩の育成やマネジメントなどに携わっている方もいると思いますので、ぜひ参考にしてください。
【事例1】自分の貢献に“気付いてほしい”Aさん

「転職したい」「部署を変わりたい」と言って、メンタリングにいらっしゃる方が時々います。
その理由をよく聞いてみると、今の会社や仕事内容がどうこうより、「一生懸命やっているのに、評価してもらえていない」という心の奥底にある不満や悲しみ、もどかしさが伝わってきます。
食品メーカーで働くAさん(20代後半)も、その一人でした。どれだけ何かを達成しても、誰も気にかけてくれないことに不満を持っていたのです。
そこで私は「自分の仕事ぶりをもっとアピールしてみてはどうですか?」とアドバイスしてみました。
するとAさんは、「わざわざアピールしなくても、上司なら普通は気付くものじゃないんですか?」と首をかしげます。
そこで、『コーチングの神様が教える「できる女」の法則』(原題:How Women Rise,サリー・ヘルゲセン&マーシャル・ゴールドスミス著、日本経済新聞出版社)に書かれている例を挙げ、女性は男性に比べて自分の実績を言わずとも「他の人が気付いてくれるはず」と期待しがちであることや、上司に自分の貢献をアピールしない傾向があることを伝えました。しかし、それでは上司に分かってもらうことは難しいのです。
そこでAさんは、取り組んだ仕事と成果を、定期的に上司にメールにまとめて送り、報告するようにしました。
すると、「忙しくて細かく見ることが出来ず心苦しく思っていました。Aさんから働きかけてくれて良かったです」という返事をもらえたとのこと。その後、Aさんは自分が評価されていると実感できるようになったそうです。
ただ、この時に注意したいのは、謙虚過ぎる報告をしてもいけないし、実績を盛り過ぎるのもよくないということ。
「100の仕事をしたら、きちんと100の分をレポートしましょう」とAさんにお伝えしたところ、「100の仕事を120で伝えるのには抵抗がありますが、100を100でレポートするのは権利であり、義務ですね!」とうなずいていらっしゃいました。
【事例2】目先のことで頭がいっぱいのBさん

旅行会社で働く管理職のBさん(30代半ば)は、ある資格試験の勉強をしています。業務上の知識を深めるため、また社内でより広範囲の仕事をするため、その試験に合格する必要があると言います。
しかし、思うように準備が進まず、「とても合格する気がしません……」と、不安になっているとのこと。
そこで私が、「その試験に合格することで何を起こしたいのですか?」と問い掛けてみました。つまり、「試験に合格すること」をゴールにしていないか、確認したかったのです。
すると、はっとしたBさん。「試験は最終的なゴールに向かうための通過点だと考えたら、気が楽になった」とおっしゃっていました。目の前の壁を、未来のために越えるものと捉えてみると、それほど高いものと感じられるようになるのです。
このように、考え方を少し変えただけで、Bさんは、自分で自分にかけていたプレッシャーから解き放つことができました。リラックスして勉強を進めることができ、試験も見事合格。
「試験は通過点だと思ったら、当日も緊張せずにいられました。これからまた頑張ります」と、晴れやかな笑顔で報告してくれました。
【事例3】上司との人間関係がギクシャクしていたCさん

働く女性たちの多くの悩みは、人間関係に起因すると思います。特に職場においては、人間関係の良し悪しは、職場の空気、ひいてはパフォーマンスに密接に関連してきますよね。
人は誰しも気持ちの良い人間関係の中で、気持ち良く仕事したいと思っているはずなのに、どうしても上手くいかないことがあります。
ある都市銀行で派遣社員として働くCさん(20代)は、新しい上司(女性)が苦手で、出社するのが苦痛になってしまいました。初日に些細なことで注意され、「この人は口うるさいな」と思ったことがきっかけだったそうです。
それからも、「彼女は私のやること全てにダメ出ししてくるのです」と憂鬱な表情。「上司だって○○なのに!」と攻撃的な言葉も出てきます。
メンターの私から見ていると、「Cさんのネガティブな気持ちは態度や表情にも表れ、上司にも伝わってしまっているのだろう」と思いました。それによって上司はもっとCさんに対してネガティブになるということは想像に難くありません。
メンターとしての経験から思うのは「人間関係は鏡」だということです。好意にせよ、苦手意識にせよ、まるで合わせ鏡のように、自分が相手に対して抱いている感情を、相手も同じように持ってしまうことが多いのです。
そこで、自分の態度が上司の態度を硬化させている可能性があること、上司のイヤなところではなく良いところを探すように気持ちを入れ替えてみること、この二つの助言を送りました。
それ以降、セッションのたびにお願いしたのは、上司の良いところを見つけて報告してもらうこと。数回のセッションが終わったころには、「意外と良い人かもしれませんね(笑)」という言葉もCさんから出てくるようになりました。
上司からダメ出しされることがあっても「『はい、分かりました』と笑顔で返事をしている自分にびっくりした」とCさん。きっと上司も、Cさんの変化に気付いて心を許し始めたはずです。すると、お互い心地よく働けるようになっていきます。
ハラスメントは我慢する必要なし
ただ、人間関係における「鏡の法則」が当てはまらない時もあります。それは、「ハラスメント」です。
ハラスメントが起きている状態というのは、一方的に嫌がらせを受けている、こちらが不快な感情を持つような不本意な行為をされている状態のこと。
そんなときは、相手と距離を置く、逃げる、助けを求める、そういうことも選択肢に入れてください。心身の健康を損ねるほどの我慢をする必要はありません。健康ほど大切なものはありませんから。
以上、これまで3回の連載をお読みいただきありがとうございました。
皆さんが、仕事でもプライベートでも、心地よく過ごすことが出来ますように。迷ったときにはぜひメンタリングも活用しながら、自分らしいキャリアを見つけてくださいね。

畑さち子
『Mentor For』 公式メンター。ウィメンズキャリアメンター、国際コーチ連盟プロフェッショナル認 定コーチ。日本アンガーマネジメント協会ファシリテーター・トレーナー。航空会社(地上職)を退職 後、二児を育てながら、子育て本の編集・出版、海外での日本語教師を仕事とする。帰国後、コーチ ングを学び、2003年独立。2018年に、メンタリングを学び、「次世代の女性がイキイキと自分らしく 生きる」ことを応援するために、メンターとして活躍の幅を広げている
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