15 SEP/2020

雑談上手になるには? “元コミュ障アナ”吉田尚記さんに学ぶ、雑談力を鍛えるヒント「鉄板ネタは不要。質問力を磨いて」

雑談に苦手意識を持っている人は多いのではないだろうか。

上司とのミーティングや、クライアントへのプレゼンなど、「目的」も「やるべきこと」も明確ならば準備をしっかりして臨めるけれど、雑談の機会はふいに訪れる。だからこそ、臨機応変な対応が問われ、難しいと感じてしまう。

さらに、雑談相手が初対面の人であればなおさら、「何を喋ればいいのか」と、戸惑ってしまう人も少なくないはずだ。

そこで、Woman type編集部では『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)を8月に上梓した人気アナウンサー、吉田尚記さんにオンライン取材を実施。

吉田尚記

ニッポン放送で20年以上キャリアを築いてきた吉田尚記さんは、ギャラクシー賞を受賞するなど輝かしい経歴を持つ売れっ子アナウンサーだが、「僕はもともと超がつくほど会話が苦手だったんです」とあっけらかんと打ち明ける。

インタビュー中も軽やかにトークを繰り広げる吉田さんからは、まったく“コミュ障”の片鱗は見えないが、職業上必要とはいえ、どのように会話のスキルを上達させたのだろうか。雑談力の大切さや雑談スキルを上げるコツにフォーカスし、話を聞いた。

雑談は制限時間のあるゲーム。気まずさを回避すればOK

――雑談スキルって、アナウンサーのように話すことを仕事にしている人に限らず、誰にでも必要なものだと思われますか?

吉田さん

もちろん必要です。もしもあなたが「雑談が下手」という意識があるのなら、それを放置しておくのはかなりまずいと思いますよ。

――えっ、かなりまずい!? それはなぜですか?

吉田さん

雑談って、人間が集団で仕事をしたり、暮らしたりしていく上で、最強のスキルなんです。これは、職種問わずです。

吉田さん

なぜ雑談が最強のスキルなのかというと、「雑談をしたい」というのは人間の本能だから。いくらお金持ちになったって、偉くなったって、誰からも何も話を聞いてもらえない、話しかけてももらえない人生なんて嫌ですよね?

つまり、人生の目的って、実は「人とおしゃべりをすること」だと思うんです。常に目的や中身があることじゃなくてもいいから、誰かと会話を交わしたい。

これって、人間の根源的な欲求じゃないですか。それを満たすのが、まさに雑談です。

――雑談はコミュニケーションの手段でもあり、目的でもあるということですね。

吉田さん

その通りです。目的や利益のはっきりしたことしか話せない相手より、どうでもいいことでもぐだぐだ楽しく話せる相手の方が、仲良くなれますよね?

仕事も同じで、結局のところ、誰もが「気の合う人と一緒に働きたい」と思うもの。雑談していて楽しい人の方が、この人と仕事がしたいと思ってもらえる可能性が高いです。

ですから、雑談がうまくできる人のところには、そうじゃない人と比べて、いい仕事の話やチャンスがどんどん舞い込んでくると思いますね。

――なるほど。吉田さんは“元コミュ障”と仰っていますが、会話に対する苦手意識をどうやって払拭していったのでしょうか?

吉田さん

とにかく場数を踏むことですね。僕はアナウンサーになってしまったので、業務上コミュ障のままではいられなかったので。

新人の頃なんかは、上司に「アナウンサーがいるのにその場が面白くならなかったら意味がない」って散々怒られて。話がうまくできるようになりたいって思っていましたけど、実際に会話が上手くなるためのノウハウって、誰も教えてくれなかったんですよ(笑)

なぜなら、他のアナウンサーの皆さんは、会話がもともとうまい人が多かったから。「うまい会話とは何か」なんて、要素を分解して考えたりしなくても、雑談もトークも自然とできちゃう人たちだったんです。

吉田さん

ただ、僕は絶望的に会話が下手だったので、うまい会話とは何か、雑談スキルはどうしたら上がるのか、ひたすら考え続けてノウハウ化していったんです。

すると、だんだんと自分のスキルも上がっていき、いつの間にか苦手意識も払拭されていきましたね。

――雑談スキルを上げるコツはあったんですか?

吉田さん

いろいろありますが、まずは無理に「面白い話をしよう」と思うことをやめることですね。

僕は、雑談とは「気まずさを排除し続けるゲーム」だと考えているようにしているんです。話の中身なんてなくていいし、面白くなくていいから、「気まずい」とお互いが感じなければオールOK。

――なるほど、雑談をゲーム感覚でクリアするわけですね?

吉田さん

ええ。このゲームの特徴は二つあって、一つは「強制的にスタートすること」、そしてもう一つが「必ず制限時間があること」です。

例えば、取引先に向かうために上司とタクシーに15分間乗るとするじゃないですか。その間、無言だったらかなり気まずいですよね?

でも、そこでめちゃくちゃ面白い話をする必要はなくて、ただ「気まずいな」と思う瞬間をお互いに感じることなく15分間を終えることができれば、それで十分。

つまり、雑談のハードルを自分で高め過ぎないことが大事なんです。

雑談で得られた情報こそ、実は“宝の山”

――たしかに、雑談ですから、ウケ狙いも深い話もわざわざしなくていいわけですよね。

吉田さん

その通りです。ちなみに、雑談も場数を踏むほど上手くなるというのが僕の持論。苦手意識があるなら、雑談にトライする数を増やすといいですよ。

――吉田さんも雑談を練習したんですか?

吉田さん

しましたよ。僕にとっての最大の練習の場は、エレベーターでした。

エレベーターって、誰が乗ってくるかも分からないし、でも人と人の距離は近いから何も話をしないのは不自然だし、1分くらい乗っている時間がある。

そこで、ある時から「エレベーター内で気まずくなったら負け」という自分ルールをつくったんです。エレベーターに乗ってきた人が偉い人だろうと後輩だろうと、少しでも顔見知りであれば必ず話し掛けて雑談をしよう、と。

その時に気付いたのが、会話の技術イコール質問の技術だ、ということでした。

――質問するスキルが上がれば、自ずと雑談力も向上すると?

吉田さん

そうです。例えば、「最近スマホ変えたんですよ」って自分からいきなり自分のことを話し始めるのは変だけど、相手に「スマホ新しく変えたんですか?」って聞くのは自然ですよね?

スマホ変えたんですか?から、機種は何ですか?とか、その色お好きなんですか?とか、関連する質問もたくさん出てくるし。相手も、イエスかノーかの返事だけでなく、理由を説明するからたくさん話してくれますよね。

――たしかに。雑談の機会を増やしたら、仕事にも良い影響はありましたか?

吉田さん

めちゃくちゃありましたよ。単純にトークスキルが上がったこと以外にも、もっと違うリターンがありました。

冒頭、「雑談力を上げると面白い仕事に取り組めるチャンスが増える」とお話ししましたが、実際にそういうことはたくさんあって。

例えば、営業の人とエレベーターで一緒になったとしますよね。「これからどこ行くんですか?」って聞いてみるだけでも、その人が今関わっているプロジェクトが分かったりするんですよ。

吉田さん

別に僕はプロジェクトのことを知りたくて聞いたわけではないんですが、雑談の結果、社内のいろいろな情報が分かるようになるんです。

すると、社内の見取り図が見えてきて、必要なときに誰に話を聞けばいいか、話を通せばいいか、ぱっと頭に浮かぶようになる。あくまで副産物なんですが、雑談を頻繁にしていると、そういうことが起きるんです。

――なるほど、一気に仕事がしやすくなりそうですね。

吉田さん

本当に使える有益な情報って、「こういうものが欲しい」という目的を設定して手に入るようなものじゃないと思うんです。

探してネットで見つかるようなものは、皆がアクセスできるものだから大して価値はない。何となく人と話をしているときに、いつの間にかパッと手元に入ってきた情報にこそ、宝が眠っていますね。

すぐ使える「天気の話」は疑問系で相手に伝えて

――雑談の重要性がよく分かりました。ちなみに、初対面の人との雑談で困ることが多いのですが、そういうときに使えるフレーズってありますか?

吉田さん

天気の話をすればいいと思いますよ。

――「今日は暑いですね」とか、そういうことでいいんですか? つまらない奴って思われませんか?

吉田さん

「暑いですねー」ってお話しするのもいいですが、ポイントは、疑問形にすることです。相手の返事が「そうですね」で終わらない形で、天気の話をぶつけてみるんです。

例えば、商談相手がスーツを着ていた場合、「今日は暑いですね、○○さんはいつもスーツでお仕事なさってるんですか」って聞いてみるとどうですか?

服装へのこだわりの話とか、会社のクールビズの話とか、いろいろ広がりそうですよね?

――確かにそうですね。ただ、次々に質問が思い浮かばなくて困ることもあって。頑張って雑談しようと思うほど、相手に対する興味がどうしても湧かないときもあるというか……。

吉田さん

先ほど申し上げた通り、雑談は制限時間のあるゲーム。せっかくですから、そのゲームをクリアすることを考えてみるといいですよ。

相手への興味、という意味では、「思い込み」だけでだいぶ変わると思います。皆さんはどんな人に興味がありますか? イケメンになら興味が持てるという人もいるかもしれないし、面白い人に興味があるという人もいるかもしれない。

今、初対面で目の前にいる人が、そういう自分の興味のある人かもしれないという目線で見てみたらどうでしょう。少しは「もっといろいろ話してみよう」っていう気持ちになれそうじゃないですか?

吉田さん

まぁ、そこまでするかは別としても、真面目な話、誰に対しても興味を持って話が聞ける人、話を引き出せる人は非常に有利ですよ。

生きやすくなるだろうし、仕事においても得することが多いと思います。

――先ほど、吉田さんは雑談力を磨くには、「場数が大事」と仰っていました。でも、最近はリモートで働くことも増えていて、雑談の機会も減っていると感じます。その中でも、雑談力を磨く方法はあるのでしょうか?

吉田さん

リモートだろうと対面だろうと、この世に雑談の隙はいくらでもありますよ。

オンライン上だとしても、人に質問することはできますからね。ただ、質問のきっかけを拾い上げるために、敏感でいる努力はすべきです。あとは、「話しかける勇気」と「失敗しても凹まない強さ」、この二つはどうしても必要ですね。

僕の最新著の裏テーマは「コミュニケーションで悩む人を救いたい」です。このインタビューと書籍と、両方合わせて見ていただいて、雑談の大切さに気付いてもらえたら、ちょっとだけ勇気を出して「話すこと」に一歩踏み出してみてほしいと思います。

吉田尚記

吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。ラジオ番組でのパーソナリティの他、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。マンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)、『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』(河出書房新社)など。

書籍情報

元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書

元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書(アスコム)
著者:吉田尚記
発売日:2020年8月22日

【体験談も多数掲載!元・コミュ障の著者による、本当に使える&一番やさしいコミュニケーションの教科書】
「30秒の会話もつらい」「うまく話せなくて気まずい」「人と話すのが怖い」…コミュニケーションに悩める人のための、一番やさしい会話術の本です。

取材・文/太田 冴