社内の平均年齢は50代後半!? 新会社の立ち上げで、定年を過ぎた販売職に活躍の場を/イトキンメビウス株式会社

イトキン株式会社が、100%出資子会社・イトキンメビウス株式会社を設立した。同社が2月18日よりオープンした新ブランド『GRACERA』は、50代以上の女性がターゲット。販売職も定年を迎えたベテラン社員を中心に構成する。イトキンメビウス代表取締役・荻原節也氏は、この新法人発足を「全国にいる販売のプロが、60歳以降もやりがいをもって働ける場をつくることが目的」と語る。もともとイトキンでは毎年130人前後の社員が定年退職を迎えていた。そのうち販売職は約80人。中にはもっと働きたいという人も少なくなかった。
60歳でキャリア終了じゃもったいない!
その想いが生んだ、新たな活躍のステージ

イトキンメビウス株式会社
代表取締役社長
荻原節也さん
1976年に大学を卒業し、イトキン株式会社に入社。1979年仙台支店開設と同時に仙台に赴任し6年間勤務。1985年東京本社に戻り『クレージュ』のマネジャー職に就任する。1996年営業本部に異動し、2008年に営業本部本部長に就任。2015年にイトキンメビウス株式会社設立にあたり、代表取締役社長に就任
「アパレルブランドとしては、想定するターゲットと販売職の年齢層が一致しているのが望ましい。けれど、歴史とともに販売職のスタッフの年齢がブランドに対して上に来ているのも事実。まだまだやれるという気持ちを持ちながらも、60歳という区切りで、やっぱりダメなのかなと退職をされる方も多くいらっしゃいました」
優れたベテランスタッフには、「お得意様」と呼ばれるような上顧客や販売ノウハウがある。定年退職を機にスタッフが競合他社に再雇用されることで、こうした目に見えない財産が流出してしまうことは、同社にとっても大きな損失と言えた。
そこで、「優秀なスタッフが活躍できる新たなステージをつくろう」と踏み切ったのだ。
「私も今年で61歳ですが、正直、シニアと呼ばれることには抵抗がありますね(笑)。今の60歳はみんな若いですから。社内を見ていても、60歳という年齢だけでキャリアが終わってしまうことがもったいないなあと思う方がたくさんいます。実際、これまでも優秀な方には定年を過ぎた後も延長して働いていただくケースもありました。そうやって既存のブランドに残っていただく道もありますが、組織のサイクルを考えれば、後任の店長にきちんと仕事を引き継いでいくことも考えなければならない。だったら、定年を迎えたスタッフのための新しいブランドを立ち上げることが最良だと考えました」
次のキャリアモデルが明確になることで、
今の仕事も前向きに頑張れる
『GRACERA』は3月中旬までに全国20店舗を構える。店長クラスは、60歳以上の社員が中心。荻原氏らが「この人となら一緒にがんばっていける」と信頼できるスタッフを全国から選りすぐり、直接打診した。中には選抜した店長からの紹介や、すでに同社を退職したスタッフを再雇用するケースもあったという。また、営業職やデザイナー、MDに関しても、経験豊富なベテラン社員から集めた。
「やっている仕事の中身は違うけど、同じ世代だから想いは同じ。それぞれの分野で活躍してきた方ばかりなので、我々としても非常に心強く思っています。また、こうして定年後の道が開けたことで、50代後半のスタッフがモチベーションをキープして仕事に取り組めるようになったのも大きな効果ですね」
キャリアの終わりが見えると、どうしても仕事への意欲は下降しがち。だが、先の新たなキャリアモデルができれば、自然と次の目標も立てやすくなる。
「当社は今、本物を見てきた先輩たちが、その体験を次世代につないでいかなければいけない時期。若い人をどんどん育てていくためにも、ベテランの方々にこれからもがんばっていただきたい」
「スタッフが長く働き続けることは、会社としても意味のあること」という信念を込め、荻原氏は力強く語った。
~Staff’s Voice~
「澤地さんが道を開いてくれたら私も安心する」 後進の言葉が、新しいチャレンジへの勇気をくれた

イトキンメビウス株式会社
西武百貨店池袋本店 店長
澤地るみ子さん (61歳)
文家政学部を卒業後、1975年に商社に入社。初代受付を4年務める。1985年イトキン株式会社に入社し『CHRISTIAN AUJARD』に配属。東急プラザ店で3年間販売職として務めた後、日本橋東急百貨店の店長として異動し、7年間勤務。1995年、西武百貨店池袋本店『クリスチャン オジャール』新規オープンの店長として20年勤務して現在にいたる
イトキンに入社したのは、32歳のとき。それまでは事務職として働いていました。でもやっぱりアパレルの仕事がしたくて、いろんなブランドを見た結果、ここだと決めたのが、当社の『CHRISTIAN AUJARD』。以来、30年間、ずっと『CHRISTIAN AUJARD』で販売の現場に立ち続けてきました。
ちょうど55歳になったとき、ようやくこの仕事のコツが見えてきたんです。お客様との接し方も“極めた”という感覚が持てるようになって、一緒に働く他のスタッフの考えていることも分かるようになった。そうしたら仕事がますます面白くなってきて。正直、ここで辞めるのは嫌だなと思っていました。でも、会社には「60歳で定年」という制度がある。どうしようと迷っていた矢先、荻原社長から『GRACERA』の話をいただきました。
『CHRISTIAN AUJARD』への愛着もあったから、最初は少し悩みました。でも、お客様のことや私たちのことを大切に考えてくれる荻原社長の考え方に共感して、チャレンジしてみることに。それからというもの、同世代の同僚や友人に『GRACERA』の話をすると、いろんな人が“私も誘ってほしい”って目を輝かせてくれるんですよ。50代後半のあるスタッフからは“澤地さんがそういうふうに道を開いてくれたら私たちも安心する”と言ってもらえて。その言葉はすごく嬉しかったですし、私自身もまだまだいけるぞっていう勇気をもらえました。
『GRACERA』は50代以上の方がターゲットではありますが、デザインもシルエットもモダンで若々しいところが特徴。だから、私も『GRACERA』の商品が似合うよう、ますます自分を磨かなくちゃって張り切っています。今、私は61歳。でも、年齢のことなんて全然気になりません(笑)。『GRACERA』と一緒にこれからも成長を続けて、楽しく年齢を重ねていきたいです。
取材/文 横川良明 撮影/masaco (CROSSOVER)