島田晴香「会社に行きたくなくて酒に逃げてた」AKB48→会社員のリスタートを苦しめた“歪んだプライド”

島田晴香さん
~「頑張る」をサステナブルに~
わたしたちのリスタート

Woman type4月の特集では、転職、起業、出産など、キャリアの転機を経てリスタートをきった女性たちにフォーカス。再出発を経験した彼女たちの事例から、サステナブルに仕事を頑張り成果を上げていくための「良いスタートダッシュ」の切り方を提案します!

アイドルグループ『AKB48』を卒業後、一般企業の会社員になり、その数年後に起業と、二度のリスタートを経験している島田晴香さん。

最初のリスタートとなった会社員時代は、「元アイドルだから仕事ができないんだ」と思われたくないというプライドが邪魔をし、成果を出せない毎日に苦しんだ。

お酒を飲んでは「明日会社行きたくないな……」とぼやく。理想の自分と冴えない現実の狭間で苦しむ日々を送っていたという。

ところが、起業してからは逆に「元アイドル」であることを強みに、順風満帆にやってこられたと笑顔を見せる。

彼女はどのようにして、かつて成長を邪魔していたプライドを強力なエンジンへと変えていったのだろう。

島田晴香さん

株式会社Dct
島田晴香さん

1992年生まれ。アイドルグループ『AKB48』第9期生メンバー。2017年グループ卒業後、芸能界を引退し、英国ロンドンへ留学。帰国後は広告代理店勤務を経て、20年に後輩アイドルのセカンドキャリアを支援する株式会社Dctを設立。23年11月に結婚を発表し、翌年第一子を出産 ■XInstagram

「AKB48の看板がないとダメじゃん」と思われたくなかった

AKB48を卒業して、広告代理店に就職。この時が私にとっての最初のリスタートでした。

現在の私は起業した会社でアイドルのセカンドキャリアを支援していますが、私自身、セカンドキャリアには本当に悩んだんですよ。

まずは社会人経験を積むことからスタートしようと思ったのですが、いざ一般企業に就職したら本当に何もできなくて。

営業職として入社したのですが、パソコンが使えないどころか、名刺の渡し方も分からないし、電話も取れない。敬語は変だし、メールで絵文字を使って上司から怒られたこともありました。

給料はミニマムスタートだったから、家賃や光熱費を払うのに精一杯。仕事は初歩的なところでつまずいているし、金銭的にも余裕がないし、気持ちはどんどん暗くなっていました。

当時の私は27歳。学生時代の友人たちは社会人4〜5年目。最低限のビジネスマナーすら身に付いていない私とはステージが違う。友人と会う度に自分と比べて落ち込んでしまって

あの頃の私にとって、芸能界と一般企業は全くの別世界。「アイドルの仕事=社会人経験」という感覚はなかったし、同世代の人たちから遅れを取っていることに気持ちばかり焦り、すっかり自信をなくしていました。

AKB48時代の島田晴香さん

AKB48時代の島田晴香さん

そんな周囲への劣等感があったからか、元AKB48であることを仕事で関わる人たちに知られたくなくて、ひたすら隠していたんです。「結局、元AKB48の看板がないと生きていけないんじゃん」って思われたくない一心で。

気づいてくださるクライアントさんもいましたけど、それが嫌で……。今思うと、すっごい塩対応していましたね(笑)

大きな看板だからこそ、「元AKB48」と見られるのが嫌だったんです。

プライドを捨ててみたら、仕事がうまくいき始めた

今思えば、当時の私は周りの意見を全く聞いていませんでした。

「AKB48だったことは知られずに結果を出さなきゃいけない」みたいな、「私はこうだから」「こうでなければいけない」という決め付けや変なプライドがあって。それは本当に邪魔だったなと思います。

実際、営業は全然うまくいかなかったんですよ。

先輩と一緒にクライアントを回る期間を終え、4カ月目から自分で新規クライアントを開拓するようになったけれど、とにかく契約が取れなかった。

そんなある日、先輩から「どうしてAKB48だったことを話したくないの?」と聞かれたんです。

「『アイドルだったから仕事ができない』とは思われたくないから」と答えた私に対して先輩は、「そんなこと誰も考えていないと思うよ」「未経験なんだから仕事ができなくて当たり前でしょ」って言ってくれて。

もしかしたら、もっとラフに考えていいのかも……。

それまで意固地に周りの人たちの助言に耳を閉ざしていた私が、その時素直にそう思えたのは、もうずっと契約が取れない日々が続いていることに対して「給料泥棒」になってしまっている焦りがあったから。

「ここでアドバイスを聞けなかったら、私はもうずっとダメかもしれない」と思ったんですよね。

そこでだまされたと思って、AKB48出身であることを隠さず営業をしてみた結果、初めて1社契約が取れたんです。

AKB48だったことに気づいてくださったクライアントさんに対し、アイドル時代の話で場を盛り上げてから商談に入ってみたら、すごく話がしやすくて。場の空気を自分のものにしてから話を進めるとこんなにやりやすいのか、というのは発見でした。

AKB48時代の島田晴香さん

AKB48時代の島田晴香さん

中には、「島田さんがセカンドキャリアを頑張っているから、今回お願いしてみようかな」と、応援してくださる方もいました。

切羽詰まっていたから先輩の言葉を素直に聞けたけど、今となっては最初から聞く耳を持っていればもっと早くうまくいったのにって思います。

いっそのこと、名刺に「元AKB48」って書けばよかった(笑)

会社員時代の苦しみが2度目のリスタートの大きな武器に

就職して約2年後、アイドルのセカンドキャリア支援を行う企業としてDctを立ち上げました。

実は、一般企業に就職したのは、起業するために会社員を経験しておこうというのが目的でした。

もともとスポーツマネジメントの仕事に興味があって、AKB48卒業後はスポーツマネジメントを学ぶためにロンドンに留学をしたのですが、そこでスポーツ選手とセカンドキャリアについて話す機会があって。

話をする中で、スポーツ選手同様、アイドルにもセカンドキャリア支援が必要だという思いが芽生え、「アイドルのセカンドキャリア支援を手掛ける会社を立ち上げる」という目標を抱くようになったんです。

島田晴香さん

起業してからは、とにかくさまざまなところに顔を出しました。

かつてのマネジャーさんや会社員時代にお付き合いがあった企業など、新しい名刺を持ってあいさつに回って。

斜に構えず、がむしゃらに頑張っていることをしっかりアピールするようにしていましたね。

そうしたことで、AKB48時代にお世話になった方が別の方を紹介してくださり、そこからセカンドキャリア支援をご依頼いただくなど、縁にも恵まれてここまで順風満帆にやってこれたように思います。

初めての起業だったけれど、これといった挫折もなく順調に事業を成長させてこられたのは、周りの人に恵まれていたことはもちろん、会社員時代のリスタートでつまずいた経験も大きいと思っていて。

変なプライドにとらわれずにやった方がうまくいくことを知っていたから、二度目のリスタートは最初からできない自分もさらけだして、がむしゃらに走れた。

会社員としてリスタートを切った時期は本当に苦しかったけれど、あの時の経験は無駄じゃなかったと今心から思っています。

変なプライドは「絶対辞めない」エネルギーでもあった

私が支援しているアイドルや俳優の皆さんを見ていると、「やり切ったから次の道に進む」と決めている人の方が、後ろを振り返らず頑張れる傾向にあるのを感じます。

ただ、リスタートを切る時の心境は人それぞれ。中にはやり切ったとは思えないまま次の道に進む人もいるかもしれません。

そういう人は、まずは将来を考えて次の道に進む選択をしたことを肯定してほしいなと思います。

だって、決断するのって本当に大変ですから。その選択をした自分を認めて、次の道で頑張ればいい。

島田晴香さん

あとは、できるだけ気持ちを整理した状態でリスタートを切れるといいですよね。

この先、どんな自分になりたいのか。何のために新しいスタートを切るのか。そこを理解しておかないと、同じことの繰り返しになりかねないなと思います。

私、会社員になった頃は毎日「辞めたい」と思っていたんです。逃げるようにお酒を飲んで、「二日酔いでだるいな」「会社行きたくないな」みたいなことばかり考えていて。

それでも続けられたのは、自分が頑張ることで後輩達に新しい道をつくれると思っていたから。

そして、AKB48だったことが頑張るエネルギーになっていました。「アイドルって続かないんだ」と思われなくなかったですし、AKB48に恩返ししたい気持ちが強かった。

あれだけ変なプライドが邪魔をしていたけれど、そこだけは良い方向に作用したなと思います。プライドも使い方次第ですね。

将来を描いて頑張ることは、幸せなこと

ありがたいことに、今では毎月アイドルの子たちからセカンドキャリアの相談が来ています。

これまで約10名を社会に送り出してきましたが、最初の1カ月はやっぱりみんな悩むんですよ。周りと比較して自信をなくしてしまう。

でも、できなくて当たり前なんですよね。周囲の同世代の人たちと比較する必要なんてない

悩んでしまう人たちに自分の体験談を伝えて励ます一方で、彼女たちが頑張る姿から「私も頑張ろう」という気持ちをもらっています。

セカンドキャリアを考えることは、将来を描くこと。それは、今の自分がどう日々を過ごせばいいかを考えることにもつながります。

結局卒業はできなかったけれど、私はAKB48に在籍していた頃に大学に行っていて。周りからは「逃げだ」「芸能一本で頑張れないから保険だろう」と言われてめちゃめちゃ傷ついたんですよ。

当時は「そう思われるよな」と思ってしまっていたけど、今なら「別にいいじゃん」って思います。

目の前のことをやり切ることと、将来のために何かをすることは全く矛盾しないと私は思います。どちらも自分がなりたい姿に向かって頑張ることであり、むしろ幸福度は上がると思っています。

島田晴香さん

今の私のなりたい姿は、いろいろな選択肢が持てる自分。もっと自分の力をつけて、何でも選べる自分でありたい。

そのためにも、まずは会社の規模を大きくしていけたらと思っています。今は自分一人の会社ですが、チームで闘える組織にしていきたいですね。

そして、AKB48出身であることを誇りに、今のAKB48にとってプラスになるような活動をしたい。そうやって恩返しをしていきたいと思っています。

取材・文/天野夏海 編集/光谷麻里(編集部) 写真/島田晴香さんご提供

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