この6年で女性社員数が5倍に急増!? 国際自動車の女性タクシードライバーが今注目を集めているワケ
「女性が働きやすい職場」と聞いて、どのような環境を思い浮かべるだろうか。多くの人は、既に多くの女性たちが活躍している企業をイメージするかもしれない。また、職種で言えば事務職のようにオフィスワークで定時きっかりで働けるような仕事が女性向きだと考える人も少なくないだろう。
だが、そのような常識が今、大きく変わりつつある――。
女性も生涯働き続けることがスタンダードになり、ライフステージの変化に合わせて柔軟なキャリア選択ができる環境で働くことが重視されるようになってきた。そんな中で今多くの女性たちから注目されているのが、国際自動車株式会社のドライバー職だ。実際にこの6年で、同社の女性ドライバーの数は約5倍にまで急増している。これまで男性的なイメージが強かった同社のタクシードライバーだが、なぜ今、この仕事が女性たちの間で人気となっているのだろうか。
その秘訣を探るため、国際自動車で働く女性タクシードライバー2人にインタビューを実施した。
3人の子どもを育てたワーキングマザーと、新入社員。ライフステージが異なる2人の女性ドライバーは、どのようなきっかけで同社のドライバー職に就くことになったのだろうか。
毎日同じ仕事をこなすだけでは物足りない!
編集部:女性ドライバーは業界でもまだ珍しい存在だと思います。そんな中で、お2人が現在のお仕事を始めた経緯について教えてください。
成毛さん(以下、成毛):「就職活動をしていた時に当社の説明会に足を運んだのがきっかけです。当時は事務職として働くことをイメージして参加したのですが、そこで女性ドライバーも採用していると知り、興味を持つように。学生時代に経験した接客のアルバイトがすごく楽しかったので、お客さまと直接触れ合う仕事の方が向いているのではないかと思ったのです。それに、常に同じ時間に同じ場所で働くというのも、性格的に向いていない気がして。実際のところ、当時は車を運転する習慣はほぼ無かったんですけどね(笑)」
河野さん(以下、河野):「私は前職で銀行の事務の仕事をしていました。お給料はちゃんともらえるし、残業もほとんどないクリーンな職場。でも、いつも同じ人たちで同じ業務を淡々とこなす毎日……。正直なところ、やりがいという点においては物足りなさを感じていました。約5年働いて転職を決意した頃、偶然ですが当社の採用ページを見て、女性採用が非常に活発だということを初めて知りました。ドライバーなら自分の工夫次第で効率良く働けそうだし、たくさんの人との出会いの中で刺激もある。それに、頑張った成果も目に見えて分かるはず。そういうところに惹かれて、応募してみることにしました」
編集部:実際に国際自動車で働き始めることになり、周囲の人の反応はいかがでしたか?
成毛:「うちは、父と祖母が『危ないんじゃないか』と心配してはいたものの、母は『あなたがやりたいことなら』と応援してくれていました。実際にドライバーデビューをして9カ月が過ぎましたが、危険な思いをしたことは1度もありません。最初のころは目的地までのルートが分からず、戸惑ってしまうこともあったのですが、お客さまはお優しい方が多くて、丁寧に道順を教えてくれたり、逆にサポートしてもらうケースも多々(笑)。都内の運転にも慣れた今では、『あなたのタクシーにまた乗りたい』とお客さまから指名してもらえることも増え、仕事がすごく楽しい! 今は家族と一緒に実家に暮らしているので、毎日ワクワクしながら出勤している私の姿を見て、家族ももう安心しているようです」
河野:「うちの家族も私がやりたいことを尊重してくれたので反対はしませんでしたが、やっぱり『交通事故に遭ったら……』と不安だったみたいです。でも、入社以来、事故などは一度もなく、今はそんなに気にしていないようですよ」
編集部:お2人とも、ご家族の不安は次第に消えていったのですね。また、ご自身が入社後に困ったことなどはありませんでしたか?
河野:「実は、私は東雲営業所で初の女性ドライバーなんです。それで、最初は女性が入っていっても大丈夫なのだろうかと少し心配していたのですが、入ってみてびっくり! 『困っていることはないか』『不安なことはないか』と周囲の先輩や上司、同僚が常に気遣って声をかけてくれるような環境でした。なので、女性一人だからといって、不自由を感じることはありませんでしたね」
成毛:「そういえば、最初は今ほど社内設備が整っていなかったんですよね?」
河野:「そうそう。トイレとか、シャワールームとか、仮眠室とかね。私が来てからはそういった設備も女性が心地よく使えるように手を加えてくれて。会社全体で女性にとって働きやすい環境をつくろうと力を合わせてくれたのがうれしかった」
ワーキングマザーにもぴったり!?
時間と場所に縛られない仕事で自分らしく働く
編集部:人間関係が良好なことはもちろん、職場の居心地の良さも長く働く上で重要ですよね。ちなみに、男性だと高齢でもドライバーを続けている方が多い印象なのですが、女性ドライバーはどうなのでしょうか?
河野:「女性も男性も関係なく、定年後も働かれている方がいらっしゃいますよ。女性ドライバーの最高齢は、落合営業所の方で今年70歳です」
成毛:「“若くなくちゃできない仕事”じゃないから、安心して今後のキャリアプランも考えられるんです。それに、この仕事は子どもがいる女性にこそ、ぴったりの仕事なんじゃないかと思うことも」
編集部:というと?
成毛:「当社のタクシードライバーはシフト制(※)で働いているのですが、その中での時間の使い方は自分の裁量次第。休憩を何時にどこで取るかは自分で決められます。絶対に9時~17時でオフィスにいなければいけないといった働く場所に縛られることもないため、休憩時間の中で家に戻って家事を済ませたりする人もいるみたいですよ」
(※)同社には日勤・夜勤(実働7時間45分+休憩1時間)と、隔日勤務(1日置きの勤務で実働15時間30分+休憩3時間)の3つのシフトがあり、希望のワークスタイルに合わせてシフトを選択できる
河野:「おいしそうなレストランを見付けたら、ふらっと寄って休憩することもできるしね(笑)。子どもの授業参観とか、学校行事への参加もできちゃう」
成毛:「そうなんですよね。今のワーキングマザーの方が大変なのって、職場に『時間と場所』の制約があることが一つの要因になっている気がしていて。それが今の仕事には無いので、そういう不安もありません」
編集部:やはり、自分で裁量を持って仕事ができるかどうかは、働きやすさを語る上で欠かせないキーワードと言えそうですね。
河野:「そう思います。自分で裁量を持つことができると、どんどん工夫して成果を挙げようという気持ちも沸いて来ますしね」
成毛:「河野さんは本当にすごいんですよ。常に先を読んで行動していて、すごく効率良くお客さまを見つけていますよね」
河野:「うふふ、主婦の得意技かしらね(笑)。例えば、朝の時間帯なら遅刻しそうで急いでいる人がいるかもと予測して住宅街を走ってみたり。お子さま連れの方が多い場所を見つけたら、移動に困っている人も多いはずなので注意深く運転してみたり……。状況を見ながら、タクシーを必要としている人がいそうな場所を考えて動きますね」
成毛:「そういう読みができるかどうかで、一日の売り上げも全然変わってくるんですよ」
編集部:成果に応じてお2人のお給料も変わってくるのでしょうか?
河野:「そうです。まず基本給があって、そこに成果給がプラスされます。簡単に考えると、売り上げの半分程度を手取りとして頂けます。だから、やればやっただけ自分に返ってくる面白さがあるんですよ。事務員時代には絶対に味わえなかった楽しさです」
年収は前職の2倍! やりがいはそれ以上に増えた
編集部:ちなみに、河野さんは銀行事務の時と比べて年収はどのくらい変わりましたか?
河野:「ざっくりですが、2倍にはなりましたね」
編集部:ええ~! すごい!
河野:「当社のドライバーの中には、年収1,000万円を超える者もいるんですよ。ドライバーって、各自の工夫と努力次第でかなり稼げる仕事なんです。だから、老後のお金の不安とも無縁! また、ドライバーから社長になることだってできます。実際、今の社長はドライバー出身。だから、現場をすごく大切にしてくれるし、皆に平等にキャリアアップの機会をくれますね」
成毛:「私の直近の目標は、スキルアップとキャリアアップを兼ねて国家資格の『運行管理者試験』に合格すること。この資格があると、当社でマネジメントの仕事ができるようになったり、キャリア選択の幅が広がるんです」
編集部:収入の面でも、キャリアアップの面でも、夢が膨らみますね。
成毛:「はい。やりがいもあるし、働くモチベーションもずっと高いままでいられます」
河野:「タクシードライバーになって初めて気付いたのですが、世の中には移動の面で助けを必要としている人ってすごく多いんですよ。小さいお子さま連れの方、高齢の方、怪我をされている方……それだけではありませんが、タクシーが無ければ本当に生活が立ち行かないような方もいる。だからこそ、お客さまを無事に送り届ける仕事に感じるやりがいはすごく大きいんです。いつも、自分が人や社会の役に立てていると実感できるので、辞めたいと思ったことはありませんね」
編集部:お2人のお話を聞いていると、改めて、「女性が働きやすい会社」のイメージが変わりますね。
河野:「何を働きやすいと感じるかは人それぞれ違うとは思うのですが、自分の可能性を狭めてしまうような、偏った視点で仕事選びをするのだけはオススメできませんね。これからの時代は女性も長く働いていくのが前提です。やりがいと裁量を持って働ける環境かどうか、女性だからと特別扱いはせずにキャリアアップの機会を与えてくれるかどうか。そういう視点で会社を見てみると、将来の可能性が広がっていきます」
成毛:「あとは、女性社員の声を大事に拾って、多様性を尊重した会社づくりをしていこうという意欲があるかどうかも大切。ただ口で言っているだけではなく、そういう組織作りをするための具体的なアクションを取っている会社なのかどうかを確認することも、女性が働きやすい会社かどうかを見極めるカギになりそうですね」
イキイキとした笑顔で、自分たちの仕事・会社の魅力を語る2人。同社が女性に選ばれる理由が、お分かりいただけるだろう。
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太