向井理「相手を否定して自分を守っていた20代」を経て見つけた、人との向き合い方の最適解

向井理「相手を否定して自分を守っていた20代」を経て見つけた、人との向き合い方の最適解

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

10月3日から上演される舞台『ブランク』。過去と現在の間にある時間の空白、そして、人と人との間にある埋められない空白――。さまざまな「ブランク」を通して、他者と分かり合うことの難しさを描く作品だ。

どれだけ言葉を交わしても、相手のことを完全に理解するのは難しい。

それでも、チームでいい仕事をするためには、異なる考え方や価値観を持つ人たちとベクトルを合わせていく必要がある。

向井さん

若い頃は、一つの作品をつくり上げていく過程で、「その表現は違う!」と周囲に反発してしまうこともよくありました。

でも今思うと、あの頃は自分の主張を押し通そうとすることでしか自分を守れなかったのかもしれません。

そう振り返るのは、本作で主演を務める向井理さんだ。

2006年の俳優デビュー以来、数々の映像・舞台作品を経験し、ときには座長としてチームを導いてきた向井さん。

周囲とのぶつかり合いも経験する中で、異なる感性や価値観を持つ人と「いい仕事」をするための向き合い方を変えてきたという。

分かり合えない相手を否定するのではなく、どうすれば同じ方向を向いて働けるのか。その答えを、向井さんの20年の試行錯誤から探った。

カメラに向かってポーズを取る向井理さん

向井理さん

1982年2月7日、神奈川県生まれ。2006年に俳優デビュー後、多くのドラマ・映画・舞台に出演。近年の主な出演作に、ドラマ『パリピ孔明』(23年/フジテレビ系)、『ライオンの隠れ家』(24年/TBS系)、『ダブルチート 偽りの警官』シリーズ(24年/テレビ東京・WOWOW)、舞台『ウーマン・イン・ブラック』(24年)、劇団☆新感線いのうえ歌舞伎『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』(25年)、『ハリー・ポッターと呪いの子』(22年~)などがある

向井理|オフィシャルWEBサイト Instagram X 

台本に書かれていない「間」が作品を面白くする

舞台『ブランク』で向井さんが演じるのは、多忙な弁護士・浅香賢介。

交通事故をきっかけに、清掃会社で働く米原佐知子(西田尚美)と出会った浅香は、彼女の過去にある「空白」が気になり始める。知りたい気持ちと、知らないままにしておきたい気持ち。その狭間で揺れ動く浅香の姿が描かれる。

脚本・演出を手掛けるのは、舞台『リムジン』以来、約3年ぶりにタッグを組む倉持裕さんだ。

向井さん

倉持さんの作品って、すごく繊細な側面があるんです。コメディー要素があっても、ただ笑わせればいいわけじゃない。間やテンポを少し間違えるだけで、笑いが起きなくなってしまうこともある。なかなか緊張する作品です(笑)

今回向井さんが演じる浅香は、セリフ量も多い。だが、向井さんにとってチャレンジングだったのは、むしろ台本に書かれていない部分をどう表現するかだった。

向井さん

セリフって情報と音でしかなくて。それ以外の感情は、小さな仕草や目線、息遣い、間の取り方にかかってくるんです。

目線ひとつでも、伝わり方がだいぶ変わると思っています。

カメラに向かってポーズを取る向井理さん

舞台上で交わされる言葉の裏側には、言葉にならない感情がある。だからこそ、向井さんは役をつくり込みすぎない。

向井さん

「自分が演じるキャラクターはこういう人だ」と決めつけず、ニュートラルでいた方が、見る人によってさまざまな捉え方をしてもらえます。

自分で正解をつくっちゃうと、お客さまにもそういう風にしか見えなくなりますから。

作品にも役柄にも、あえて幅を残す。見る人や日によって違って見えていい。

そんな“余白”を生かしながら、浅香という人物をどう立ち上げていくのか。向井さんの表現は、本作の見どころの一つになりそうだ。

一人くらい“周りに負荷を掛ける人”がいたっていい

今年でデビュー20周年を迎える向井さん。長年第一線で活躍し続ける彼が、プロとして大切にし続けているのが「鮮度」だ。

向井さん

特に舞台は同じ作品を何度も上演するからこそ、毎回少しずつ変化をつけることを意識しています。

決められたセリフを変えることはしませんが、視線の配り方や意識するポイントを変えることで、毎回異なる景色が見られるから。

以前出演していた舞台では、演出上、一言だけアドリブを入れる場面があり、その内容を毎公演変えていたという。

ちょっとした変化だが、共演者に与える「何か起きるかもしれない」という緊張感が、舞台を生きたものにする。

向井さん

僕がいる舞台は、「ずっとアンテナを張っているから、お腹が減る」ってよく言われます(笑)

でも、お腹が減るくらい気を張ってちょうどいいと思うんですよね。僕がいることでパワーを使わせてしまっているかもしれないけれど、一人くらいそんな人がいた方が、現場の鮮度が保たれると思うので。

カメラに向かってポーズを取る向井理さん

見せる側が慣れてしまうと、舞台の鮮度は失われていく。だから向井さんは、同じ作品であっても、より良い表現を追い続ける。

周囲とうまく調和しようとするあまり、つい妥協してしまったり、相手に負荷を掛けないことを優先したりする人もいるだろう。しかし、あえて負荷を掛ける役回りを担うことで、向井さんは舞台の魅力を高めている。

向井さん

『ブランク』でも、100人のお客さんがいれば100人それぞれが何かを拾って帰れるように、昨日より今日、今日より明日へと変化させていきたい。「ポカンとされたら負け」だと思ってやっています。

そのために欠かせないのが、新しいものを自分の中に取り込み続けることだ。

向井さん

新鮮さを取り入れ続けるために、日常でも生の人間に触れることを大事にしています。

街中で「あの人エリートっぽいな」と思ったら、姿勢なのか、歩き方や目線がそう思わせるのかを観察して自分に取り込んでいくんです。

そうやって生の情報を常に吸収していれば、説明的な芝居をしなくても、お客さまに自然とその人物として認識してもらえると思っています。

自分の意見を押し通すことで、必死にプライドを守っていた20代

周囲に刺激を与えながら、チーム全体でより良い表現を追い続ける向井さん。

だが、かつては考え方や価値観の異なる人たちとどう向き合えばいいのか分からず、周囲とぶつかることも多かったという。

向井さん

若い頃は、思っていることをうまく伝えられなかったり、実力もないのに「その表現は違う」ってストレートにぶつけちゃったりしていて。

今振り返ると、自分を守るのに必死だっただけなんですよね。そんな自分の壁を壊してくれたのが、初めて立った舞台『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~』(2011年)でした。

カメラに向かってポーズを取る向井理さん

向井さんにとって初めての舞台作品。右も左も、上手も下手も分からない。演出家からもプロデューサーからも厳しい指導が続いた。

「稽古場で物が飛んでくる光景は初めて見ましたよ(笑)」と、向井さんは笑う。

向井さん

映像作品の経験しかなかった僕にとって、長期間、毎日同じ台本と向き合い、一つのシーンを極限まで突き詰めていくという経験が初めてで。

あの時、何もできない僕を本気で叱り続けて、厳しく鍛えてくださる方々と出会えたからこそ、今日まで役者を続けてこられたなと実感しています。

向井さん

当時は悔しさもあったし、素直に受け入れられない瞬間もありました。でも、怒るのってすごくエネルギーがいるし、愛がないとできないじゃないですか。

そう考えると、面と向かって怒ってもらえるのは、とてもありがたいことですよね。

それまで、自分の意見を押し通そうとすることでプライドを守っていた向井さんだが、初舞台で叩きのめされた経験を機に周囲とのコミュニケーションも変化していった。

一つの作品を全員でつくり上げる以上、目指すものを共有できなければ舞台は成立しない。決して安くないチケット代をいただいている以上、最高のものを届ける責任がある。

そのためには、自分の主観を押し付けるのではなく、互いに「共感」できる土台をつくることが大切なのだと向井さんは語る。

向井さん

相手を否定すると、巡り巡って自分を否定することに繋がるんですよね。 「それは違う」と否定しても、相手はそれを正しいと信じてやっているわけです。そうなると、互いに否定し合う泥沼に陥ってしまう。

だから、まずは「そういう考え方もあるんだな」と一度受け止めた上で、自分の意見も誠実に伝えるようにしています。

カメラに向かってポーズを取る向井理さん

人と人は、きっと完全には分かり合えない。そこには、どうしても埋められない「ブランク」がある。

でも、分かり合えないからこそ対話を重ね、違う考えや感性を持つ人同士で刺激し合うことで、一人では生み出せないものが生まれる。

“同じじゃない人たち”と一緒につくる仕事は、だからこそ面白いのかもしれない。

取材・文/根津香菜子 撮影/笹井タカマサ ヘアメイク/宮田 靖士(THYMON Inc.)  スタイリスト/外山由香里  編集/光谷麻里(編集部)

作品情報

M&Oplays プロデュース「ブランク」( https://mo-plays.com/blank/ )

M&Oplays プロデュース「ブランク」キービジュアル

2026年10月3日(土)~10月25日(日)会場 東京都 本多劇場
※10月8日(木)、15日(木)、22日(木)は休演
※地方公演(広島、愛知、新潟、宮城、富山、大阪公演)あり
作・演出:倉持裕、出演:向井理 / 西田尚美 / 入野自由 / 森優作 / 中井千聖 / 池津祥子