企業の立ち上げで東京から飛騨へ! 大自然の中で生活して気付いた“移住生活”のメリット・デメリット 【特集:移住女子 File.03】
満員電車に揺られて何とか会社に辿り着く――。遅くまで働いて、帰ってきても何もする気力が湧かないままベッドに倒れ込む……。そんな、家と会社を行き返りするだけの代わり映えしない毎日――。東京暮らしは刺激もあって楽しいけれど、ずっとこのままでいいのかな、と不安を感じている女性も多いのでは? そんな中、「移住をして働く」という選択をする女性たちが今、注目されています。実際に、東京を飛び出し、地方や海外移住をした女性たちに、移住ノウハウや移住後の働き方、人生観の変化について聞いてみました!
File.03 移住パターン【東京→岐阜県飛騨市】
新会社立ち上げメンバーの1人として飛騨に移住!

森口明子さん
前職では、東京で外資系飲料会社のグローバルコミュニケーションを担当。株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げメンバーとして、飛騨に移住。広葉樹の森と伝統の組木、テクノロジーを活用し、古民家を改装したデジタルものづくりカフェのFabCafe Hidaを拠点に、クリエイティブな視点で飛騨の森に新しい価値を生み出す事業に取り組む
■飛騨の森でクマは踊る:https://hidakuma.com/
大学卒業後は、東京で外資系飲料会社のグローバルコミュニケーションを担当していました。刺激的な毎日を楽しんでいたものの、何となく“地に足が着かない”感覚で毎日を過ごしていました。
そんな中、現在の勤め先である株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)の立ち上げの話が持ち上がり、ヒダクマの代表取締役から、「メンバーに加わらないか」というお誘いが。
「日本の伝統技術や工藝の価値を世界に広げたい」、「世界中の面白い人たちが集まる共創空間を持ちたい」、「一企業ブランドで働くのではなく、もっと社会と繋がってる感覚を得たい」という思いがあったので、このビジネスに携わり、飛騨に移り住むことにしました。
飛騨は、豊かな広葉樹や美味しい水、山の恵み、美しい街並みと伝統の組木技術、ものづくり気質に恵まれている魅力溢れる土地。
ヒダクマは、これらの素材をIT、テクノロジー技術を活用しながら、地域の価値としてアップサイクル(元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すこと)を目指し、事業を行っています。
【移住までの流れ】
飛騨市の紹介で住居を決めた

飛騨の美しい景色
住まい探しから移住の準備を本格的にスタート。私は飛騨市の「地域おこし協力隊」を兼ねているため、飛騨市から住居を提供してもらえることになました。
仕事は移住前から決まっていたので、そこは苦労することはありませんでした。
飛騨市は「移住・定住」促進に力を入れているので、市が運営する移住者向けのサイトなども充実しているようです。
【変化したこと】
会話も、仕事のやりとりも、対面で時間を掛けて行う
物を買う所が少ないので物欲を刺激されることがなく、食事と日用品以外にお金を使うことがほとんどありません。収入は減っても、使う機会が少ないので人によっては貯金が増えるかもしれませんね。都会に比べてあらゆる面で誘惑もないため、自分の興味関心ごとに集中でき、まさに「地に足の着いた生活」を送ることができる環境です。
とはいえ、地方での移住生活は決して楽なものではありません。雪国では冬は閉ざされるので、雪下ろしや雪かきなど体力仕事も日常的にあるため、女性の一人暮らしはきついのと、精神的にも厳しいこともあります。

飛騨の雪景色
こういう面は移住してみないとなかなか気付けないことですね。なので、住む土地にもよるとは思いますが、生活を共にして助けあえる仲間がいると、移住生活もより快適になるのではと感じます。
また、仕事の進め方も東京にいる時とは全然違うことに気付きました。都内にいた時はパソコン作業に慣れきっていてコミュニケーションもメールベースですることがよくありましたが、飛騨ではデータのやりとりよりも、実際の紙媒体などによる確認作業が非常に多いです。人と人との信頼ベースで人間関係が築かれているので、口約束でビジネスが成り立っているようなことも日常茶飯事。人と話す時も、ビジネスを進める時も、東京ではさくっと終わることが2倍以上の時間が掛かったりします。こういうスピード感も、人によって合う、合わないがあるかもしれません。 どこか懐かしい町並みがあるのも飛騨の魅力の1つ
【移住して良かったこと】
飽きることのない自然の美しさと人の優しさに感動!
朝と夕方に外に出た時に目の前にそびえ立つ山の荘厳感、空気の美しさ、鳥やカエルや虫の音色、田植えの時期に黄金に光る稲穂など、自然への畏敬の念は尽きることがありません。毎日、毎瞬感動しています。

そして飛騨の人たちはみんなとても良い人。相談に行けば大概は快く引き受けてくれて、長期的に面倒を見てくれます。
こっちにいると、ビジネスで成り立つ人間関係というのが存在しないように感じます。究極、どんなに儲かってもやりたくない人とはビジネスはしないし、逆にお金にならなくても面白そう、やりたい、助けたい、と思ったらやる、みたいなプリミティブな潔さがあります。だから見返りなどを求めず、親身に相談にのってくれる人が多いのです。
本当は私自身、もっとおじいちゃんやおばあちゃんなどと仲良くなったり、畑で育てたお野菜や美味しいご飯を一緒に食べたりして、交流を増やしたいのですが、なかなか叶ってない状況です。
【メッセージ】
移住に幻想を抱き過ぎないことも大切。生きづらさや犠牲にしなければならないものもある
飛騨で暮らし始めて痛感したのは、「人も動物だ」ということ。毎日必死に暮らしているだけですが、大自然と近い距離で暮らすことによって日々無意識に自然に感謝し、その大切さを認識していると思います。都会にいては見えなかった価値観が養われていると感じます。
動物であるということを忘れず、科学やテクノロジーがどんなに進歩しても自然に敬意を払うことを忘れず、奢らず、うまく共生していく意識を持っていれば、ひとも地球も健全で、みんな楽しく生きられるのではないかと思います。

地方に住んでいると、人と会う確率や回数は都会と比べて格段に少ないですが、その分、わざわざここを訪れる人は、興味を持っていることの分野が近かったり、何らかの点で自分と交差しています。辺境地であればあるほど、母数が少ない分、興味関心の合う人と出会える確率も高い。そして、そういう場所で出会った人との関係性は、都会のように“忙しい一瞬に多数の人と交流せざるを得ない”環境で築かれる関係性とは質が異なります。
ただ、移住に幻想を抱き過ぎないことも大切。住み慣れないところへ移るということは生きづらさもありますし、何かを犠牲にしなければならないのは確かです。だからこそ、自分の人生において「大切にしたいもの」、「優先したいもの」をはっきりさせておくことが重要だと実感しています。それさえはっきりしていれば、最初つらく感じることも次第に“日常の些細なこと”になっていくと思います。
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取材・文/栗原千明(編集部)画像提供:森口明子さん