29 MAY/2023

【最上もが】“好きを仕事に”ブームに抱く違和感「仕事を好き・嫌いで選べると思っていなかった」

「好きを仕事に」——働き方や生き方の選択肢が広がった今、こんなメッセージが街中にあふれている。

しかし、「好きを仕事に」しなければ、幸せなキャリアは築けないもの? 誰もが「好きを仕事に」の実現を目指すべきものなのだろうか。

そんな疑問に答えてくれたのが、アイドルグループ「でんぱ組.inc」の元メンバーでタレントの最上もがさんだ。

最上もが

自身の半生を赤裸々につづったフォトエッセイ『も学』(KADOKAWA)では、「アイドルの仕事は、好きな仕事じゃないから続けられた」と明かしている。

「今の世の中の『好きを仕事に』という風潮にも、違和感がある」と話す最上さん。その真意とはーー?

仕事は生きるための手段。「自分がどうありたいか」は考えもしなかった

「好きを仕事に」って言葉、最近よく耳にしますよね。

SNSが発達して個人が発信しやすくなった今、職業選択の幅も広がって、夢をかなえやすい世の中になっていると感じます。

ただ率直にお伝えすると、「好きなことを仕事にしなきゃ」とみんなが躍起になっている風潮には、少し違和感があります。

もちろん「好き」を仕事にできることはとてもすてきです。でも、みんながそうある必要はないし、そうできないから悪いわけでもなく、働く意義や目的は人それぞれ違っていいんじゃないか、と思うんです。

大前提として、私にとって仕事とは「生きるため」の手段。「生きるため」に働くのだから、自分が楽しいかどうか、好きか嫌いかっていう感情は二の次でした。

アイドル ステージ

※写真はイメージです

そして、「好きを仕事に」と考える余地があるのは、私からするとかなりぜいたくだと感じます。誰にでも選択肢が用意されている訳ではないからです。

私はもともと、アイドルを志していたわけではありませんでした。親のリストラがきっかけで金銭的な理由から働かないといけなくなり、「アイドルとして働く」選択肢が偶然にも浮上しただけ。

「アイドルになりたくてもなれない人がいるのに」と言われたことはありますし、シチュエーションとしてはぜいたく、と受け取られることもあります。でも、全てが簡単にうまくいっていた訳ではありません。

もちろん、アイドルになってからは、この仕事のすばらしい部分をいっぱい知って、かけがえのない経験もたくさん積ませていただきました。

それと同時に、アイドルとして働く厳しさも知りましたし、大きなプレッシャーと戦い続けるつらさも味わいました。

ただ、それでも自分が体調を崩してしまうまでは、「仕事を辞めよう」とは思わなかった。それどころか、アイドルの仕事を全うするために死にものぐるいで努力し続けようと腹を決めて取り組んでいました。

好きでもない仕事のためになぜそこまでできたのかと言われれば……「アイドルが好きだから」じゃなくて、仕事を通して「誰かのためになりたい」という使命感があったからだと思います。

アイドルは応援してくれるファンやスタッフの方がいるから成立する職業。だから、私の中では「アイドル=人を楽しませる仕事」という意識が強いんです。

仕事としてやる以上は、「自分が楽しめるか」「私がどうありたいか」は二の次。そんなこと気にしたこともなかったですね。

何よりもまず、グループのメンバーやサポートしてくれるスタッフや家族のために。そして応援してくれるファンのために。プロとして働く以上、期待された役割に全力で応えたいと思っていました。

「苦手なこと」も「抵抗感があること」も、やれば必ず見方が変わる

最上もが

また、アイドルは「なりたい人」がいっぱいいる職業です。実際、私の周りにもアイドルが好きで、なりたくてなった人がたくさんいました。

そんな中で、偶然アイドルとして働くようになった私は、歌もダンスも他のみんなより圧倒的に下手で、劣等感を抱く場面も多かったです。

でも、むしろそれでちょうどよかったんだと思います。なぜなら、あぐらをかこうと思わなかったから。人より苦手なことがある分、うまくできるようになるための努力を惜しまなくなるじゃないですか。

歌やダンスを猛練習して、ライブを何度もやることで場数を増やして試行錯誤して。そうする中で、できなかったことができるようになっていって、少しずつ自信も付きました。

また、グラビアの仕事も私の中では大きな挑戦で、アイドルの仕事同様に自分が好きだからやったことではありませんでした。カメラの前で水着姿になるなんて恥ずかしいし、自分の体に自信があったわけでもないし……かなり勇気がいりました。

しかし、当時は自分で仕事を決められることもなく、上の人が決めたことは絶対だったので、私がグラビアをやることでグループのためになるなら……と必死で自分を納得させる理由を考えていました。

グラビア撮影

※写真はイメージです

でも、いざやってみると意外な発見がいっぱいあったんです。

グラビアの撮影現場は男性スタッフさんばかりだと勝手に思っていましたが、女性スタッフさんも多くて、カメラマンさんは女性の体をいかにアートとして美しく見せるかを追求してくれました。

実際に撮影していただいたものが世に出ると、女性ファンの方からたくさんコメントをいただいて「もがちゃんのグラビアは同性でもドキッとする」と言ってもらえてすごくうれしかったです。

こうやっていろいろな仕事をしているうちに、最初は好きじゃなかったり苦手と感じる仕事でも、やっているうちに興味を持てるようになったり、やりがいを見いだせることを知りました。

仕事選びのきっかけなんて、何でもいいと思うんですよね。「お金のためにやる」でも「人から勧められたからやる」でもいいし。

でも、その仕事に自分なりの意義やモチベーションを見いだせるかは、自分の考え方次第

「好きを仕事に」じゃなかったとしても、せっかく始めた仕事を嫌々やらないための関わり方やとらえ方は、自分なりに模索できるといいんじゃないかと思います。

「好きなこと」が苦痛になってしまうのは悲しい

最初に、私にとって仕事とは「生きる手段」だとお話ししましたが、自分の過去を振り返ると、美術系の学校に通っていたときに先生から言われた言葉も大きく影響しているような気がします。

私は絵を描くことが好きだったので、中学から美術を選択し、高校も美術系に進学したんですけど、そこでよく先生から「こんなレベルで画家で食っていけるなんて思うなよ」ってよく言われていたんです(笑)

美大

※写真はイメージです

当時は画家になろうと思って美術の学校に進んだわけではなかったのですが、課題も先生によって好みで評価されてしまい、好きで描いていた絵もどんどんつらくなってきて。「好き」は趣味だけにとどめようと思うきっかけになりました。

また、私の周りにも好きなことを仕事にした結果、「売れるためにウケがいいものを作らなければ」と葛藤した結果、好きだったことが嫌いになってしまった人もいます。

だから、「好きなこと」は「好きなこと」として大事に楽しむためにも、仕事とは切り離して考える方がよかったと個人的には思いますし、今は絵を描くことやゲームなど自分の好きなことも仕事に生かせる場面があり、線引きがしやすくなりました。

逆に、「好きを仕事に」を実践しようとする人たちには、「好きなものを仕事にしながら守る」強さとか、覚悟が求められるはずで、それができる人たちは本当にカッコイイなと思います。

オファーに全力で応える働き方は、今もこれからも変わらない

最上もが

アイドルグループを脱退してからは、個人事務所を立ち上げて、幅広く挑戦させてもらっています。

かつては生きるためにアイドルの道を選んだ私ですが、独立した今も、「仕事は生きる手段である」というスタンスや、「最上もがの仕事は誰かを喜ばせるものである」という考え方もほとんど変わっていません。

大前提はファンの人をがっかりさせないように、と思っていますが、多様なニーズにきちんと応えられるよう、頂くオファー案件はしっかり考えてから決めています。

個人事務所になり、以前よりさらに重視するようになったのは、「誰と働くか」ということですね。

それこそ、個人でやっていくにあたって大変だったのはマネジャーとの相性。

私の仕事に対するこだわりについていけなくなった方もたくさんいたので、今は現場マネジャーはつけず、アイドル時代一緒に頑張っていた「なめこちゃん」というスタッフと二人三脚でお仕事をしています。

また、今は一児の母として子どもをちゃんと育てていきたいという使命感も強くて、働く原動力になっています。

少しずつ守るべき存在が変化しながらも、今は娘のために頑張れる。これまで以上にまっすぐに、「仕事」に向き合っていきたいです。

<プロフィール>
最上もが(もがみ・もが)さん
1989年、東京都生まれ。2011年アイドルグループ「でんぱ組.inc」に加入し芸能界デビュー。 アイドル活動を続けながら、ファッション誌やコミック誌の表紙を飾り、写真集も発売するなどモデルとしても活躍。ドラマや映画に出演し女優としても活動。 2017年8月にグループ脱退後、個人事務所を設立しドラマや映画、バラエティー、ファッション誌、ナレーション業、漫画の原作に挑戦するなどマルチに活動中。2021年に第一子出産■TwitterInstagramHP

書籍紹介

最上もが

『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』(KADOKAWA)

34歳、元アイドル、シングルマザー、元でんぱ組.inc最上もが初のフォトエッセー。 “不器用でもいい” 生きづらい日々を変えるため、自分と向き合う1冊。

>>詳細はこちら

取材・文/安心院 彩 企画・編集/栗原千明(編集部)