2020年入社組は“損してる”のか? 人事のプロが明かすコロナ禍世代のリアルな市場価値

2020年入社組は“損してる”のか? 人事のプロが明かすコロナ禍世代のリアルな市場価値

コロナ禍で社会人生活をスタートした「2020年入社組」。入社直後からリモートワークが始まり、先輩の仕事を間近で見る機会も、同期と気軽に話す時間もないまま、新人時代を駆け抜けてきた。

気づけば社会人7年目。大卒であれば、現在は27〜28歳。

特に女性にとっては、結婚や出産といったライフイベントも現実味を帯び、「このままでいいのか」とキャリアを見つめ直すタイミングでもある。

では、この世代は転職市場でどう評価されているのか。コロナ禍という特殊な環境での新人時代は、キャリア形成にどう影響したのだろうか。

今回は、人事のプロである人材研究所の代表・曽和利光さんにインタビュー。2020年入社組のリアルな評価と、これからキャリアを巻き返すためのヒントを聞いた。

人材研究所代表 曽和利光さん

人材研究所代表
曽和利光さん

主に企業の人事部への採用コンサルティングなどを行う。1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て90年に京都大学教育学部に入学、95年に同学部教育心理学科を卒業。 (株)リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーを務めたのち、(株)オープンハウス、ライフネット生命保険(株)などで人事を担当。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで執筆する。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)がある

コロナ入社世代に足りなかった“二つの経験”

人事のプロが明かすコロナ禍世代のリアルな市場価値
編集部

2020年の4月に初めて緊急事態宣言が発令され、その後数年にわたる自粛生活が始まりました。その年に社会人になった「2020年入社組」は、他の世代と比較してどのような特徴があるのでしょうか。

曽和さん

知識の量という意味では、他の世代と大きな差はありません。ただし、仕事の進め方や成長のプロセスにおいては、明確に違いが出ているポイントが二つあります。

編集部

どんなポイントでしょうか?

曽和さん

一つ目は、「暗黙知」に触れる機会が少なかったことです。

暗黙知とは、マニュアルや言葉では説明しきれない、仕事のコツや感覚のこと。

たとえば、「このタイミングで一言添えると商談がうまくいく」とか、「上司はこういう順番で報告すると喜ぶ」といったものですね。昔から「見て盗め」と言われてきた領域です。

本来、新人は先輩や上司の仕事ぶりを観察しながら、こうした感覚を自然と身に付けていきます。

編集部

2020年入社組の多くは、入社直後からリモートワークでしたよね。物理的に「見る」機会がほとんどなかった、と。

曽和さん

ええ。そして本来なら上司が不足部分を言葉で補わなければなりませんが、当時は上司側も急にリモートに移行したため、言語化スキルを十分に磨く時間がありませんでした。

結果として、新入社員は「不慣れな上司が言語化した情報」からしか学べない状態になり、人によっては重要なことがぽっかり抜け落ちている可能性があるのです。

編集部

なるほど……。もう一つの特徴は何でしょうか?

曽和さん

もう一つの違いは、「インフォーマルネットワーク」を築く機会の不足です。

インフォーマルネットワークとは、同期のつながりやランチ仲間など、社内の非公式な人的つながり、情報共有のネットワークのことを指します。

実はこうした“非公式なつながり”は、組織で仕事をしていくうえで非常に重要です。

編集部

業務とは直接関係なさそうに見えますが……インフォーマルネットワークが欠如すると、どのような問題があるのでしょうか。

曽和さん

まず、「自分の仕事以外には関わらない」という状態になりやすい。これを人事用語では「組織市民行動が生まれにくくなる」と言います。

本来であれば、誰かが業務で困っていたら自然と手を差し伸べるものですが、つながりが弱いと「自分の仕事ではない」と見て見ぬふりをする、といったことが起こりやすくなるのです。

また、出社して顔を合わせれば自然に高まる「従業員エンゲージメント」も生まれにくくなるでしょう。

編集部

たしかに、人との関係性が薄いと、会社への思い入れも生まれにくそうです。

曽和さん

さらにそれらは、メンタル面への影響もあります。

たとえば直属の上司と相性が合わなくても、別の先輩に相談できることがありますよね。そうした“逃げ場”や“支え”になってくれる人がいるかどうかは、とても大きい。

新卒であれば同期同士の横のつながりも、その後の社内ネットワークの基盤になります。

こうした社内のつながりや学びの機会を得にくかったことが、2020年入社世代の大きな特徴であり、同時に課題でもあると言えるでしょう。

むしろ有利? 「2020年入社組」の転職市場での評価

「2020年入社組」の転職市場での評価
編集部

2020年に入社した世代も、今年で社会人7年目です。転職を考え始める人も増えるかと思いますが、これらの経験不足は転職にどのような影響があるのでしょうか?

曽和さん

まず前提として、 現在は売り手市場なので「2020年入社世代であること」自体が不利になることはありません。

むしろ、新人時代に培った「非同期の働き方」がプラスに評価される側面もあります。

編集部

非同期の働き方、というと?

曽和さん

簡単に言うと、「同じ時間・場所にいなくても仕事を進める働き方」です。チャットやドキュメントを使って、時間差でやりとりしながら仕事を進めるスタイルですね。

急にリモートワークへ移行した環境の中で、新しい方法を模索しながら仕事を進めてきたという意味で、2020年入社組は従来とは違う働き方を前提にした 「ニュータイプ」だといえます。

編集部

なるほど。では「ニュータイプ」ならではの強みがあるということですね。

曽和さん

ええ。本来は、暗黙知の共有や観察学習の方が効率的ではありますが、それができない環境だったからこそ、自分で調べて試しながら進める力が身に付いているはずです。

非同期の働き方は、従来のように「見れば分かる」環境ではありません。自分がどのような仕事をし、どこでつまずき、それをどう乗り越え、どんな結果を出したのか。

それらを言葉にしなければ、周囲には伝わらない環境だったからこそ、自分の仕事を整理して伝える力は、自然と鍛えられているはずです。

編集部

2020年入社組は必然的に、転職市場で有利になる能力を身に付けてきたのですね。

曽和さん

ただ 一方で、「フィードバックを受ける機会が限られていた」点は課題です。

フィードバックは、自分の現在地や強み・弱みを把握するための「成長の鏡」。通常であればオフィスの中で「あの発言は良かったよ」などと声をかけてもらうことがありますが、リモート下ではその機会が著しく低下していました。

2020年入社組は、そういったフィードバックが少なかったことで、能力に問題がなくても自信を持てなかったり、自分の強みや弱みを正確に理解できていなかったりする傾向があります。

編集部

フィードバックが不足すると、どんな影響が出るのでしょうか?

曽和さん

本来であれば、的確なフィードバックをもとに「自分にはこの経験が足りないから、次はこの領域に進もう」と判断でき、それが適切な転職につながります。

しかし、フィードバック不足による成長実感の乏しさや自己認識のズレによって、キャリアの方向を見誤ってしまう可能性が高まるのです。

自分のできることに「名前」を付けてみる

「2020年入社組」の転職市場での評価
編集部

環境に適応する力や言語化能力はある一方で、自己認識に課題がある。どうすれば「自己認識」を意識できるようになりますか?

曽和さん

フィードバックを「自分から取りにいくこと」です。自分がどんな仕事をして、どんな成果を出したのか。その過程では何が良くて、何が足りなかったのか。それを自分の言葉で伝えないと、上司も評価やアドバイスをしづらいですよね。

編集部

たしかに、見えていない仕事にはコメントしようがないです。

曽和さん

その通りです。 さらに言うと、 ネガティブなフィードバックは、上司側も伝えにくいものですし、受け取る側も抵抗があるもの。

お互いに避けがちだからこそ、自分から「どこを改善すべきか教えてください」と取りにいかないと、気づけないままになってしまいます。

また、会社の中で中堅になるにつれてフィードバックの機会は減っていきます。2020年入社組は、まさにそのタイミングに差しかかっている世代。だからこそ意識的に動くことがより一層重要になってくると思います。

編集部

なるほど。では特に女性の場合、意識すべきポイントはありますか?

曽和さん

女性はフロントよりもバックオフィスやサポート業務に回りやすい傾向があるので、プロジェクトの中でも「支える側」にまわりがちです。

こうしたサポート業務は非常に重要ですが、成果が見えにくく、言語化しにくい。営業のように数字で表せるものではなく、「なんでもやってくれる人」で終わってしまいがちです。

編集部

たしかに事務職やアシスタントなど、「言語化したくてもしづらい」分野で働く女性は少なくありません。

曽和さん

ただ実際には、そこには多くの「ポータブルスキル」が含まれています。

「ポータブルスキル」とは、会社や職種が変わっても通用するスキルのこと。たとえば、調整力や段取り力、周囲を巻き込む力などですね。

問題は、それらのスキルに「名前がついていない」ことです。

能力がないのではなく、言語化されていないために、自分でも気づけず他者にも伝えられない。その結果、「自分には強みがない」と感じてしまうことも少なくありません。

編集部

なるほど。自分には強みがないと感じる上に、30歳前後でライフイベントと重なると、さらに焦りも生まれそうですね。

曽和さん

ええ。だからこそ大切なのは、自分ができていることに名前をつけることです。

「自分は何を再現性高くできるのか」を言語化する。それだけで評価は大きく変わります。

また女性は特に、結婚や出産といった変化を意識するなかで「早くキャリアの軸を持たなければ 」と焦りやすくなります。ただし、その軸は必ずしも専門スキルである必要はありません。

編集部

どういうことでしょう?

曽和さん

これからは専門スキルをAIが担う時代。つまり専門スキルを持つAIに対し、人間は的確な指示やフィードバックができればいいのです。

だからこそ今後重要になるのは、周囲を巻き込みながら仕事を進める力や、状況に応じて判断し動ける力など、いわば「土台の力」です。

編集部

なるほど。先ほどのポータブルスキルに通じますね。

曽和さん

ええ。そしてもう一つ重要なのは、キャリアの中断をネガティブに捉えすぎないことです。

たとえば育児は、複数のタスクを同時にこなす経験ですし、優先順位をつける力も鍛えられる。これも立派なポータブルスキルですから。

編集部

見方を変えれば、キャリアの経験としても活かせるんですね。

曽和さん

そうです。特に女性は、自分の価値を過小評価しがちですが、2020年入社組は「言語化能力」という強みをすでに持っていますよね。

その強みを使って、自分の経験に意味づけをしていく。これからはその優位性を発揮できる時代になっていくでしょうし、そこからキャリアはいくらでも巻き返せると思いますよ。

文/宮﨑まきこ 取材・編集/大室倫子(編集部)